疑惑
その日のうちに、メディアが取材に来たが、警察官が学園内への立ち入りを阻んだ。その理由として、まだ混乱が収まらず、生徒たちの精神状態に影響を与えるとの事だった。取材陣は仕方なく引き上げていった。
そして翌日、五月三十一日、土曜日。報道された内容は、一部の生徒たちに集団ヒステリーが起こり、パニックになった生徒が、通報して警察と消防が駆け付けたのだという事だった。
そして週明けの六月二日、月曜日、
「警察は捕食者について公表は避けたようですね」
放課後の学園長室で、笹崎が学園長に言った。
「そのようですね」
と答えると、学園長は深いため息を漏らした。
「警察は捕食者をどうしたんでしょうね?」
オカルト先輩こと、石原が誰となしに聞くと、
「解剖したんじゃない?」
と
「警察がそんな事するでしょうか?」
すみれが聞くと、
「あれじゃない? ほら、宇宙関係の組織があるじゃん? 何て言うんだっけ?」
宝条が聞く。
「JAXAよ。宇宙航空研究開発機構。そこへ運ばれた可能性はあるわね。解剖されたかは分からないけど、色々と調べているはずよ」
と石原は答えたあと、
「そういえば、奴らの思考が読めなかったんだけど、どうしてだろう?」
と誰となしに聞いた。
「きっと、奴らは思考を読まれた事に気付いて、防御策を取ったんじゃないでしょうか? 思考を読み取る事を妨害する装置を作ったのかもしれないです」
と石原の質問に、すみれが答えた。
「奴らの思考が読み取れなくなった今は、推測になるけど、奴ら、すみれちゃんを狙っているのかもしれない」
と石原が言うと、
「そうかもしれないです」
とすみれは答えて、俯いて見せた。
「大丈夫、すみれちゃんには私たちがついているから」
表情が暗くなったすみれを気遣う様に、宝条がそっと肩に手を置いて言った。
「水月先輩を狙って来るという事ならば、どこに現れるかは予測がつきますね」
とそれまで黙っていた姫野愛がぽつりと言った。
「そうですね。ただ、一兵卒を一体ずつ捕らえていくのは効率が悪い。敵の数も分からない。こちらも策を練らなければならない」
と沖田が冷静に言って、
「水月さん、空間の裂け目の向こうはどうなっていましたか? 何か分かった事はありますか?」
とすみれに尋ねると、
「はい。裂け目の向こうは宇宙船の中だと思います。奴らは、そこから直接空間を繋いでいるのだと思います」
とすみれが答えた。
「なるほどね。ワームホールか。奴らは高度な科学力を持っているという事だな?」
と沖田が納得したように言って、
「奴らが人間を捕食する理由は何だと思う? 高度な科学力を持っているのに、生物を捕食するなんて原始的過ぎるだろう」
と言葉を続けた。
「たぶん、捕食者は狩りを担当としていて、それを巣に持ち帰る。働きバチと同じ。奴らには食べ物を作る材料がないから、他の星から調達していのだと思います。裂け目の向こうにはたくさん居ましたが、一体しかこちらへ出てこなかったのは、私たち能力者が居たからだと思います。私たちを恐れていたのだと思います」
とすみれが言うと、
「なるほど。それなら、こちらにも勝機はある」
と沖田は光明が差したような明るい表情で言った。
翌日の放課後、石原は校舎の裏門に山田太郎を誘い出し、
「山田君、単刀直入に聞くわね。あなた、人間じゃないよね?」
と聞いた。
「うん。僕はナノロボットで、この星の住民でもない」
と山田が答えると、
「そう。あなたの目的は何?」
と石原は奇想天外な話に動じる事も無く、質問を続けた。
「捕食者を全滅させる事。僕の星は奴らに全滅させられたんだ」
山田が答えた時、
「先輩、ここで何をしているんですか?」
とすみれがやって来た。石原は、こうなる事も想定していた。彼女の思考は読み取れない上に、山田太郎が人ではない事を知っているはずのすみれが、石原達には何も話していない事に不信感を抱いていた。
「すみれちゃん、山田君がナノロボットだって知っていたよね?」
と石原が聞くと、
「ええ、もちろんです」
とすみれは平然と答えた。
「どうして、私に教えてくれなかったの?」
と石原が聞くと、
「色々あったので、話すきっかけを失っていただけです。山田君を仲間に入れるつもりですか?」
とすみれが質問で返した。
「もちろん。山田君は私たちの知らない情報を持っているはずだから」
と石原はすみれに言って、
「これからは、私たちの仲間として、一緒に戦いましょうね」
と山田に向かって言ったその時、すみれは氷のような冷たい眼をしていた。
山田は帰宅すると、早速、
「はい」
山田が出ると、
「お疲れ。他の能力者も、水月すみれの様子を疑い出したようだな? このままだと、あいつは何をするか分からない。お前は引き続き、あいつの行動を監視していてくれ。他の能力者に危害を加えるようなら連絡してくれ。すぐに駆け付けるから」
と蓮が言う。
「うん。分かった」
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