オカルト研究部会議
会議室へ通されたすみれ達は、それぞれ自己紹介をし、
「では、未来に起こった捕食者の襲撃についてお話します」
と石原は前置きして、すみれから聞いた話を短くまとめて浅野に伝えた。
それを聞き終わった浅野は、
「事情は分かりました」
と一言言って、すみれ達を見回し、
「しかし、今の状況では、圧倒的に戦力に欠けるでしょう。戦闘系の能力者の協力が必要ですが、これから来るかもしれないという不確実な未来に期待するのでは準備不足です。不確実を確実にしなくてはなりません。未来で共に戦ったという能力者を見つけ出し、未来に向けて戦闘準備をするべきです」
と言葉を続けた。
「う~ん。確かにそうですね」
と石原は言ったあと、
「私の能力を使えば、彼らに呼びかけることも出来るけど、ピンポイントで思念を送るとしたら、狭い範囲でしか出来ないから、まずは彼らがどこに居るのかを確認する必要があります」
と言葉を続けた。
「分かったわ。では、あなた方が知っている彼らの情報を提供してください。私が調べておきましょう」
と浅野が言った。
こうして、他の能力者の捜索を浅野に任せる事とした。
翌日、月曜日の放課後、オカルト研究部の部室には部員が集まった。
「それでは、会議を始めます」
と石原が言って、すみれがこれまで経験してきたことを時系列に並べて、それについて検証を始めた。
まず、一度目の襲撃が起こったのは2025年5月12日の月曜日、午前9時。場所はすみれちゃんが居た2年3組の教室の、教師用机の辺りに縦に裂け目が出来た。そこから現れたのは一体の捕食者。その当時、すみれちゃんには能力者である自覚はなく、目の前でクラスメイトが捕食され、強い衝撃を受けたというもの。
その後、捕食者が裂け目へ戻っていき、全てが無かったような状況となった。最初はこれが、捕食者による時間操作だと思っていたが、これは、すみれちゃんの能力の発動により、時間が戻ったと推測できる。ただ、その際に、捕食されたクラスメイトの存在までもが無かった事になった。これについては、まだ、謎は残されている。
5月22日の木曜日、午前9時に、二度目の襲撃。場所は2年2組の教室。この時の状況も、一度目と同様。その翌日に、宇宙人の山田太郎君がやって来た。
三度目の襲撃は5月29日の木曜日、午前9時。場所は2年3組の教室。能力を自覚したすみれちゃんが捕食者を斃し、犠牲者は出さず、時も遡らなかった。そして、捕食者を捕らえて、警察と消防が駆け付けた。
6月4日、JAXA職員の浅野涼先生が表向きは臨時教員としてやって来た。浅野先生が予知能力で見た、四度目の襲撃について能力者たちに伝えた。
そして、6月12日の木曜日、午前9時、四度目の襲撃。場所は2年3組の教室。空間の裂け目からは、武器を持った捕食者が次から次へと出て来て、戦闘の間を縫って、すみれちゃんと山田君、沖田君が捕食者の母船へ乗り込み、その爆破に成功するも、爆発に巻き込まれた能力者が全員死亡するという事態となり、すみれちゃんが強い衝撃を受け、また時を遡った。
と、石原がそこまでホワイトボードに時系列を書いて説明したところで、部室の戸が叩かれた。
「あら、来たみたいね」
石原は嬉しそうに言って引き戸を開け、
「いらっしゃい! 待っていたわ」
と、そこに現れた男子生徒に声を掛けた。
彼は綺麗に七三分けした黒髪。きっちりと制服身に着け直立不動。利発的な黒い瞳で石原を見て、
「大まかな内容は君の思念で確認している」
と一言言って、ホワイトボードへ目を向けて、
「では、会議の続きをお願いします」
と言葉を続けて席に着いた。彼はすみれの知っている人物で、後に生徒会長となる
「それじゃ、続けるわね」
と石原は言って、続きを語っていく。
すみれちゃんが強い衝撃を受ける事で、深い意識がその力を発動させて、時を遡ってしまうみたい。
そして、やり直しが始まる。一度目の襲撃が起こる前まで遡り、捕食者の襲撃に備えて準備をする。
5月12日の月曜日、午前9時、一度目の襲撃、5月16日の金曜日、午前9時、二度目の襲撃。どちらも犠牲者を出さずに済んだ。ここまでは、やり直しが上手くっていた。
けれど、5月20日の火曜日、午前9時。場所は体育館、三度目の襲撃。今までよりも多くの捕食者の襲来。能力者たちは苦戦を強いられる中、すみれちゃん、山田君、沖田君が捕食者の母船へ乗り込み、爆破させて戻って来た。そして、すみれちゃんが、空間の裂け目を閉じようとしたけれど、間に合わずに爆破に巻き込まれ、校舎ごと吹き飛ばされて全滅した。残ったのはすみれちゃんだけだった。
そこから、すみれちゃんはまた遡って今に至る。
とここまで話した石原は、
「すみれちゃんが経験してきたことは、今の私たちにとっては未来の話。だけれど、未来を知っているからこそ、今度は犠牲を出さないように策を練る事が出来る。そうでしょ?」
とみんなに問いかけた。
「そうだね。水月さんが、こうして時を遡るのは、最悪な事態を防ぐ為。それが君の役目であり、能力者である僕らの役目だ。能力者がここに既に三人も居るのは奇跡でも偶然でもない。必然なんだ。そして、他の能力者も、きっと集結するだろう。僕らが力を合わせれば、平和な未来に繋げられる」
と沖田は確信を持ったように言った。
すみれは未来で彼らと共に戦い、絆を深めていたが、今、ここではまだ出会ったばかりである。それなのに、彼らはすみれの話した、全く荒唐無稽な話を信じて、真剣に受け止めてくれたことが嬉しかった反面、どうして、ここまで我が事として考えてくれるのかが分からなかった。
そんな事を思っていると、
「すみれちゃん、心配しないで。私たちは不可思議な出来事が、この世の中に起きる事を知っているの。私の能力については、部員には秘密にしていたけど、彼らは能力者が本当にいても、驚きはしないし、偏見も持たないと分かっていたわ。彼らに私の能力について話す事が出来て良かったと思う。すみれちゃんが話してくれた未来の話を、私たちが信じたのはね、すみれちゃんが嘘をついていないという事を知っているから。私は人の思考を読めるけど、すみれちゃんは私より霊力が強い上に、思考を読まれることを防御しているから、考えている事は読み取れないけど、不安な気持ちを抱いていることくらい分かる。予知能力の浅野先生も、未来に捕食者が現れるのが見えていたはず。だから、戦闘系の能力者である、宝条さん、高杉君、笹崎先生を仲間に加えようとしているのよ。だからね、すみれちゃんの話は本当だって信じることが出来るの」
と石原がすみれの不安を和らげるように優しく言った。
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