浅野のビジョン

 そして、週明けの月曜日、二度目の襲撃があった事など、何も知らない生徒達が、穏やかな一日を過ごし、放課後となった。

 もちろん、能力者たちはオカルト研究部の部室に集合。生徒会長の沖田、バスケットボール部の高杉、チアリーダー部の宝条ほうじょうはそれぞれの活動がある為、まだ来ていない。

「それじゃあ、今日の部活動を始めますね」

 とオカルト研究部部長の石原彩夏いしはらさやかが言う。

「おう。それで? 二度目の襲撃って、どんなだったんだ?」

 とオカルト研究部幽霊部員の一人、大野龍賢おおのりゅうけんが聞いた。彼は能力者ではない為、先日の襲撃現場には居なかった。

「では、襲撃の状況、その後について説明します」

 と石原は、幽霊部員の三人に状況を説明した。


「すごいじゃん! JAXAで捕食者の解体とかするのかな?」

 と野山秋帆のやまあきほがさらりとグロテスクな事を言う。

「宇宙人、ちゃんと死んだか確認した? JAXAの人、大丈夫か?」

 と慎重派の華原駿介かはらしゅんすけが言う。

「その辺は大丈夫よ。JAXAの職員が既に死亡を確認しているし、彼らはその道のプロでしょうから。そうですよね? 浅野先生?」

 と石原が華原に答えて、JAXA職員である浅野に確認するように言った。

「ええ、もちろん。悪いビジョンは見えていないし、問題は無いわ。それよりも、この学園で、三度目の襲撃のビジョンが見えた。明日の全校集会に、捕食者が集団で襲撃してくるわ」

 と浅野が答えると、皆がどよめきの声を上げた。

「それって、犠牲者はどれくらい?」

 石原が眉を顰めて聞くと、

「分からない。空間の裂け目は大きく、横一列に十体ほどの捕食者が並び、武器を手に、こちらへ侵入しながら、手当たり次第に……。でも、これは私が予知しなかった場合の未来。全校集会を中止して、能力者だけで奴らを待ち構えれば未来は変わる」

 と浅野が答えた。

「分かりました。私が学園長に中止するよう伝えてきます」

 と笹崎は言って、部室を出て行った。

 その時、入れ替わるように、部活を終えた高杉と宝条が部室に入って来た。

「おっまたせー!」

 と宝条が言い、

「で? 話の続きは?」

 と高杉が聞く。

 彼ら抜きでの会議だったが、重要な事は石原が彼らに思念で伝えていた。

「浅野先生、敵の数はどれくらいでしょうか? そして、私たち能力者でそれらを斃せますか?」

 とそれまで黙って聞いていた姫野が聞いた。

「敵の数は分からない。少なくても百以上だと思う」

 と浅野は答えたあと、

「全てを斃せるかという質問に対しては、正確な答えを出せないわ」

 と言葉を続けた。

 浅野にだけ見える未来、もしかしたら、悲劇が見えていたのではないかと、すみれの心に不安がよぎる。やり直し前の能力者が全員死亡した、あの惨劇が脳裏に浮かぶと、それは表情にも反映されたようで、

「すみれちゃん、大丈夫だから。あたしたち強いから」

 と宝条はすみれを励ますように言って、

「気持ちも重要なのよ。負けないって強い気持ちがね」

 と言葉を続けた。

 確かにそうだと、すみれも思う。スポーツでは、対戦相手に勝つという強い気持ちが勝利へ導く。宝条もチアリーダー部の大会で高い成績を残している。だからこそ、彼女の言葉には説得力があった。


「それじゃあ、明日の朝、体育館へ集合」

 と石原は言ったあと、

「あなた達は、クラスの朝礼に参加してちょうだい。決して、見学に来るべからず!」

 と三人の幽霊部員に釘を刺した。

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