転校生・山田太郎(やり直し)

 その翌日、すみれのクラスの朝礼が始まる頃、担任の女性教師が、一人の男子生徒を連れて教室へ入って来ると、彼の容姿に女子生徒はざわついた。

「転校生を紹介します」

 と担任が言って、

「山田太郎君です。皆さん、仲良くしてあげて下さいね」

 と言葉を続けた。

 あまりにも単純で平凡な名前に、クラスメイトは、拍子抜けしたようにぽかんとしていた。

「それじゃあ、山田君、窓際の一番後ろの空いている席に着いて下さい」

 と担任が言うと、山田は言われた通りその席に着いた。これは、やり直し前とは違う。今は、佐藤静香さとうしずかが生きていて、すみれの隣の席に座っていたからだ。


 転校生の山田太郎は美しい顔立ちをしている。背の高さは男子高校生の標準。黒い髪は艶やかでサラサラ。清潔感と品のある髪型。日に焼けた事がないかの様に、白く透明感のある肌。整った眉に、黒曜石の様な美しい瞳。目を縁取る睫は密度が濃く、濡れたように艶やかで長く、瞬きをすれば、それはまるで羽の様に美しい。鼻筋が通り、唇は桜貝の様に上品な色合い。完璧なまでの美少年。

 このような見た目は、女子たちが放っておくはずもなく、休み時間ともなれば、山田太郎を取り囲み、我先にと話し掛けた。


 その後は、やり直し前と同じ状況が起こる。そして、放課後。すみれがオカルト研究部の部室へ向かうと、山田太郎が追いかけてきて、

水月みなつきさん、どこへ行くの? 僕も一緒に行ってもいい?」

 と声を掛けてきた。

「ええ、もちろん。一緒に行きましょう」

 すみれが答えて、二人が並んで歩く後ろ姿に、クラスメイトの女子たちの刺すような視線が注がれていた。


 二人がオカルト研究部の部室へ着くと、その戸が引き開けられ、

「すみれちゃん、待っていたわ」

 と部長の石原彩夏いしはらさやかが笑顔で迎え入れた。そして、

「転校生の山田太郎君も、どうぞ入って」

 と彼を快く迎え入れた。そして、

「私はこのオカルト研究部の部長、石原彩夏です。あなたの事を教えてくれるかしら?」

 すみれから彼の事を聞いていたが、直接、彼の口からも聞きたかった石原が質問した。

 今、この部室には彩夏の他に、一年二組の姫野愛ひめのあいだけが来ていた。他の能力者は、それぞれ用事があるのだ。

「僕は他の星から来ました。僕の星は捕食者に襲われて、戦争になりました。彼らの科学力は僕らのそれを凌ぐほどで、壮絶な戦いの末、僕たちは負けました。奴らに殺されたり食べられたりして、僕の星の住民は全滅です。僕も死にましたが、最後まで生き残っていた僕の仲間たちが、僕の記憶を保存したデーターをインプットした機械人間を作ったのです。それが今の僕です」

 と山田太郎が短く説明した。


 その後、部活動を終えた高杉と宝条ほうじょうもやって来て、山田太郎を紹介し、高杉が騒々しく声を上げると、生徒会長の沖田も、

「騒々しいですね」

と言って部室に入って来た。

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