第5節 正世界
辛い?
何が辛い?
わからない。
ただ面倒くさいだけかもしれない。
面倒くさいから仕事をしたくない。
面倒くさいから掃除もしたくない。
面倒くさいから食事もしたくない。
面倒くさいから生きていたくない。
そうだよね、生きたいと思わない理由は怠惰だ。
確かにわたしはわたしの知り得るひとたちに生きていてほしいと思う。
というより死んでほしくない。
けれど、わたしが生きていることで何の利益を生むのかを考えると生きている必要があるのかわからない。
誰かに生きていてほしいと思われていると確信できない。
わたしには語れるほど大層な目標があるわけでもないし、わたしは何をするべきなんだろう。
わたしは何がしたいんだろう。
生きたいように生きるってなんだろう。
そんな道しるべはあなたには見えてる?
案内板とか標識が見えてる?
案内人がいる?
多分そんなものはなくて、みんなそれでも生きてるんだよね。
わかってる。
何が正解とかゴールとかはなくて、ただ時を過ごして行き着いた先が終着点で、その場所はみんな違って、それがどんな場所でもいいんだよね。
わかってる。
わかってるんだけどな。
行先がわからないのに進んでるって面倒くさいだけじゃない?
終わる時がわからない散歩みたいじゃない?
それって楽しい?
わたしには意味がわからない。
教えて。
こんなにもこの世界は何階層まであるのかわからない未踏破高難易度ダンジョンみたいなのに攻略したいと思うの?
生きていたいと思うの?
下階層に一歩進めば地形とか環境が突然変化することもあるし、予告なく状態異常にさせられるのに?
日々雑魚モンスターと戦って、たまにボス級モンスターにやられかけてボロボロになってるんでしょ?
バカみたいじゃない?
死ぬのが怖いのはみんなそうだと思う。
けど死にたいとも思わないの?
その方が異常じゃない?
戦いたいの?
ダンジョンを疑いなく進んでいるひとの方が異常者に見えるよ。
一般論は死にたい奴らが異常者だっていう。
わたしはただ外に出たいだけなのに。
自分で出るのは許されていない。
みんなは魔王か?
いや、そうじゃない。
終わりない旅路をまっすぐ進んで、立ちふさがるあらゆる敵に果敢に立ち向かう。
それって勇者だ。
じゃあ結局、勇者が魔王に見えているわたしがヒールなのか。
そりゃ勇者は応援したくなるよね。
生きたい人は勇者なのだから死んでほしくないって思うよね。
わかった。
みんなは勇者だ。
だから、ダンジョンの中に案内板なんてなくても次の階層への階段を探して、日々モンスターと対峙して、少しずつレベルアップして、先に進んでるんだね。
そこに対価も求めていない。
生きているだけで経験値を得てドロップ品を生める。
発展を促す。
経済をまわす。
利益を生む。
対してわたしはどうだ。
わたしは勇者じゃない。
次の階層に行きたいと思えないから何も得られないし何も生めない。
だから生きている必要がないし、生きたくもないんだ。
生きている意味がない。
途中で雑魚モンスターに心折られちゃったみたい。
すべてから逃げたいもん。
やっぱり弱いだけなんだ。
雑魚はわたしだ。
怠惰だなんておこがましい。
そんな土俵にも立っていない。
みんなすごいね。
生きてるだけでえらいじゃん。
何が辛いとかじゃない。
面倒くさいとかじゃない。
弱かっただけ。
知りたくなかったな。
ある女のある人生のある散文 わに @tayo70825
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