第4話 神々の集い
しばらくすると、金銀の装飾が施された荘厳な門が、
ゴゥ――と鈍く重たい音を響かせながら、ゆっくりと開かれていく。
その中央から歩み出たのは、黒衣の軍装を纏った青年だった。
短く整えられた黒髪。整った顔立ち。微笑を浮かべながらも、背負う空気は鋭く張り詰めている。
その一歩ごとに、場の空気が静かに制圧されていく。
――
その背後には、静かに歩を揃える二人の団長の姿があった。
「……やっぱり、時間ぴったりですね。総指揮官様は」
最前列に立っていたセレナが、少しだけ柔らかい声で呟く。
「当たり前であろう。僕が遅れれば、熾界軍の威信に関わる」
ゼルヴェインは淡々と答えつつも、セレナに視線を向ける。
その声音には優しさではなく、凛とした緊張感と“象徴”としての重みが滲んでいた。
「セレナ、ゼル様の行く手を遮らないで。……総指揮官の前に立てるのは、“時間”だけよ」
静かに釘を刺したのは、第十師団団長――ガルディス=フェンロア。
肩まで伸びた金髪をなびかせ、白と金を基調とした重装鎧に身を包む姿は、まるで神殿を歩む女神そのものだった。
「その割には……随分近くに立ってらっしゃるのね? 見間違いかしら」
セレナが口元を吊り上げて返す。
その一言に、ガルディスはわずかに目を細めただけで返す。
空気に微かな火花が散りそうになった、そのとき。
ゼルヴェインの隣にいたもう一人に向かい、あえてそれを無視するように第二師団団長・ネプテリオンは口を開く。
「――ギリギリに来るとは珍しいな、イクス殿」
落ち着いた声でそう言い放つ。
蒼く澄んだネプテリオンの瞳が、ゆっくりと前に佇む男を捉えていた。
「発明に没頭していてな……。気づけばこの時間だ。歳を取ると、時の流れも穏やかでね」
返したのは、第五師団“技術開発部隊”隊長――ヴァルド=イクス。
赤銅の装甲と黒の術衣に身を包み、胸元で脈動する
「……だが、お前と私は同じ歳のはずだが?」
ネプテリオンが淡く首を傾げた瞬間、場に微妙な沈黙が流れる。
「……ああ、そうだったな。外見と年齢が切り離されると、感覚も狂ってくる。実に厄介だ」
イクスが片眼鏡を整えながら苦笑する。
「……その脳みそにも老いが来てるんじゃ?」
ぽそりと呟いたのは、陽気な声の少女――リュカ=ヴァルセリオ。
「第五師団副団長」でもある彼女は、金色のポニーテールを揺らしながら立っていた。
「ふふ。なら、次にお前の装甲を整備するときにでも……一部、わざと緩めておこうか?」
「だからそれ、冗談に聞こえないって言ってんの!」
やりとりに苦笑しつつも、ゼルヴェインは場を見渡す。
全員が所定の席につくのを確認してから、静かに告げた。
「――残るは三人。カイナ、ディセル、ユリシア。……予想通りの顔ぶれだ」
「三人? 二人じゃなかったっけ?」
レオンが首を傾げて呟く。
直後、リュカが小さく眉を寄せる。
「……今、誰かの気配……? ……いや、気のせいか」
「カイナなら、私の隣にいるわよ?」
そう言ったのは、第三師団団長――ネーヴァ=クロエル。
銀灰の瞳を細め、指を軽く弾く。
すると――
確かに“空席”だったはずの彼女の隣に、空気の揺らぎとともに“影”が立ち現れた。
黒装にアンティークゴールドの装飾を纏った青年。
漆黒の髪に、金の双眸。羽根の意匠が刻まれた鎧を着た青年が静かに椅子へと腰を下ろしていた。
――第四師団団長・カイナ=ミストリア
「俺はずっと影の中にいたぞ? ……誰にも気づかれないとは、ちょっと寂しいな」
「いや、影使いなのに影が薄いとか……それもう業よ、業」
リュカのぼやきに、カイナは肩を竦めて微笑んだ。
ゼルヴェインは、ゆっくりと息を吐き、最後の名を口にする。
「残るは二人――ディセルとユリシア。……まあ、毎度のことだ」
誰もが頷いた。
その“神の現し身”たちが、今、
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理想を広海に沈め、心無き地を歩むか。
ならば我は、悦びと共に、深海の闇へ沈もう。
──ネプテリオン=ヴォルクレア
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