白い世界

坂餅

白い世界

 白い白い雪が全てを覆いつくす。


 上を見ても下を見ても、右を見ても左を見ても、前を見ても後ろを見ても白しかない。


 自分という存在だけがこの場にあることしか分からない。


 そんな中、ぎゅっぎゅっぎゅっという音が聞こえた。


 この音が、自分が今雪の中にいるのだなと思い出させてくれる。


「ここにいたの?」

「よかった……変な世界に迷い込んだかと思った」

「なに言ってんの?」


 白い世界に現れた君の顔が、私の心を落ち着けてくれる。


「君も一人で立てば解るよ。なんかね、変な世界に迷い込んだ気分になるから」

「ごめん、全然解らない。ただの一面雪の世界よ?」

「そうだね。雪の世界だ」


 そう言うと、君は疲れた顔をする。


 ごめんね、意味の解らないことを言ってしまって。


「帰りましょ? 温かい飲み物用意してるから」

「寒すぎて感覚無いね。寒さを感じない」

「よく生きてたわね」

「実は死んじゃったのかもしれない」

「それは悲しいわ」


 そう返して『さっ、戻りましょ』と動きで伝えてくれる君の後ろをついて行きながら、動き出したせいで体が目覚めたのだろうか? 徐々に体が冷えてきた。体を動かせば温かくなるのに、動かせば寒くなる。一体どういうことかと可笑しくて、つい笑ってしまった。


「なに笑ってるの?」


 困惑している君を見て、更に笑ってしまう。


 でも、恥ずかしいな。



 いつか君が言っていた。私って笑う時、口を大きく開けちゃうみたいだ。女の子なのにその笑い方ははしたないって君に注意された。


「またその笑い方……」

「ごめんごめん、可笑しっくて」


 可笑しくて止まらない。でも、笑えば笑う程君は不機嫌になってしまう。本当にごめんね。


「口開けすぎ」

「じゃあ隠させて」


 大きく口を開けた笑い方が嫌なのなら、隠すしかない。君に見えないようにすればいいんだ。


 だから私は笑いながら、前を歩く君の肩に額を押し付ける。


 それでひとしきり笑い終わった後、君の様子を確認してみる。


「解決してないけど……まあ、いいんじゃない?」


 心底呆れた様子で、ため息と共にそう言う。


「よかった。許されたね」

「許した? ってことになるの?」

「どっちでもいいよ。それより早く戻ろう? 私もう寒くて仕方がないんだ」

「それもそうね。飲み物が冷めちゃうわ」


 私の笑い方は今はいいや。今は速く帰りたい。寒くて仕方がないから。


「ちょっと、なんで手を握るのよ」

「寒くて仕方がないからだよ」


 寒くて仕方がないから、少しでも暖を取りたい。それにこうしていると、なんだか胸の辺りからポカポカしてくる。


「解らないでもないけど……」


 そうやって唇を尖らせる君を見て、また笑ってしまう。


 温かい。こんな雪の世界でも、君と一緒なら、心も体も温かくなる。


「もう帰らなくてもいいかな? 十分温まった気がする」

「いや、こっちは寒いのよ」


 やっぱり、君のために帰らないとダメかな。


「そうかぁ、仕方がないから帰ろうか」

「……迎えにこなければよかった」

「そんなこと思ってないくせに」

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