父が「家族を残したまま死ねない」と闇覚醒したんだが!?

ちきん

第一話 闇覚醒?

 「父さん、大丈夫?」


 私は声をかけながらそっと額に手を当てた。

 びっしょりと汗をかいた父の身体は熱かった。


 「はは……大丈夫だレナ。ちょっと……寒気がな……」


 「熱があるのに寒気はやばいって言ってるでしょ」


 父の顔色は蒼白だった。

 今まで父を支えていた体は、今や布団に沈み、起き上がることすらままならない。


 私は水を差し出した。……その手は震えていた。


 しかし父は、かすかに首を横に振る。


 「……飲む元気、ない……すまん……」


 その瞬間、胸が締めつけられた。




 父は昔から身体が弱かった。

 でも、こんなに弱ってる姿を見たのは初めてだった。


 熱は下がらず、薬も効かず、村の医者は肩をすくめるだけ。


 「これ以上は……もう運次第ですね。正直、もって一晩……」


 医者の言葉が頭の中でぐるぐると回る。

 私は父の手を握って、ただ泣きそうになるのをこらえていた。




 その夜。


 村の中には冷たい風が吹き荒れていた。

 父はまだうなされていて、苦しそうだった。


 「父さん、お願い……死なないで……」


 そのときだった。




 「……死ねるかよ……」


 かすれた声が、布団の中から漏れた。

 私はびくっとして顔を上げる。


 「へ?」



 「死ねるかってんだよ……家族残してなァ……」


 バサッ!


 (ちなみに、この家庭は父子家庭であるのじゃ by作者)


 毛布を跳ねのけ、父が

 目にはギラついた光。顔は青白いが……その目には異常なまでに力が込められていた。


 「レナ……俺は気づいたんだ」


 「え……?」


 「この病気は、俺の弱さじゃない……!俺の中に宿るもう一つの力!」


 「えっ?」


 「そうだ。こいつは俺の相棒!病魔(カース・インフェルノ)だっ!」


 「えっえっ」


 父は布団をマントのように肩に羽織る。

 顔色はまだ死にかけレベルなのに、ポーズとノリだけは完全に勇者厨二のそれ。


 「俺は今、闇を受け入れた!すなわち、『病魔使い』へと覚醒したのだ!」


 「父さん!?!?!?!?」


 その瞬間、稲妻が空を走った。


 雷鳴が轟き、吹き荒れる風(家の中だし、風なんて吹いてない)に父の布団マントがバサァと翻る。……なんで?


 「カース・インフェルノ……この身をお前に捧げよう……!」


 「勝手に変な名前つけるな!身を捧げるな!!今までどおり“貧弱”でいろ!!」




 こうして、死にかけてた父は、“病魔と契約した父(自称)”になった。


 このちょっと遅い厨二病は、誰にも止められない。



 父の覇道なんなんだよが、始まったのだ__。




▽あとがき

普通に気力で耐えてるだけ。

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父が「家族を残したまま死ねない」と闇覚醒したんだが!? ちきん @chickendaisuki

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