第6章 かがみよ、かがみ、かんがみよ(9)

「中学生なんてさ、ちょっとメンタル不安定なぐらいが健全なんだよ」

 キョージュはよく分からないことを言う。

「そんなもんかなぁ」

 そうだよ、とキョージュは珍しく強めに応えた。

「感情を爆発させるなんて、子供の特権なんだよ、本来。たくさん笑って泣いて怒って、そうやって体も心も成長していくんだよ。それでいいんだよ、それで……」

 途中からキョージュは私ではなく、私の肩の上に止まっているMenDACoを見ていた。その目は怒っているような、それでいて哀しげなような、複雑な色をしていた。

 キョージュなりに何か思うところはあるらしいけれど、その本意は私には分からない。

 そっかあ、と返すことしかできなかった。


 店を出て行くキョージュの背中を見送りながら、彼女の忠告について考える。

 それ自体は、有難く受け取っておく。

 それはそれ。

 これはこれ。

 私は隠していたミラーを取り出す。隠しながらもずっと視界の端で自分の顔を映していたそれに向かって、改めてにんまりと笑顔を作って見せた。それから、怒った顔や泣き顔をしてみせる。

 当然のことながら、例え私の女優賞レベルの演技であっても、作り物の表情ではMenDACoはピクリとも動かなかった。

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メンダコは墨を吐かない 樫鳥テイカ @kashidori

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