第6章 かがみよ、かがみ、かんがみよ(7)

「それで、さっきのだけど」

 本を受け取ったキョージュが私に改めて話しかける。

「さっき?」

「いや、なんか頬をぐにぐにやってたじゃない」

 レジ業務でなんのことか一瞬忘れていたけれど、先程までの自分が何をしていたかを思い出す。

「あー。えっと、なんか、メンタル美人になるための特訓、的な?」

 ふうん、と言いつつも納得はしていない様子でキョージュは眉を顰める。どうやらちゃんとした説明を求められてるご様子。

「ええと、リフレクション法とか言うのがありましてですねぇ」


 水鏡リフレクション法。

 ナルキくんの配信の後で調べてみたら、ネットの一部でじんわりと話題になりつつあるものの、今のところはそんなに有名なものではないらしかった。知る人ぞ知るレベル。

 ざっくり言うと、これは『感情を生じさせずに感情を表に出すことでストレスを発散させる』という手法らしい。

 原理とかは、ぶっちゃけ、よく分かってない。

 ふんわりした自分の理解によると、実際に笑ったり泣いたりしていなくても楽しい空気には笑顔を、悲しい雰囲気には泣き顔を作ると、環境と感情が一致することで心がスッキリしてメンタルも良くなる、みたいな話らしい。

 その為に、いろんな表情を作る特訓として、表情筋を揉みほぐしていたというわけだ。

 私の渾身の説明を聞きながら、キョージュは「なるほど」と言ってから、左手の親指で自分の左こめかみのあたりをぐいぐい押しながら考え込んでしまった。これはキョージュの癖らしく、考えごとをしているときはいつもこめかみを指圧している。キョージュが言うにはそうする事で脳のスイッチが入るらしいけど、真似しても私には効果はなかった。

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