第6章 かがみよ、かがみ、かんがみよ(6)
もう一つのきっかけ。それはMenDACoが出来るより少し前に起こった「ハルシネーション事件」だ。
詳しくはよく知らないのだけど、ハルシネーションというのはAIが『嘘をつく』ことを言うらしい。
今の時代、どんなところにもAIがいる。企業の問い合わせも、役所の窓口も、スマホに入ってるアプリなんてAIが使われていない方が少ないと思う。そんなAI達がある時一斉に「嘘」を言うようになった。
ただし、全部が全部というわけではない。普通に使う分には問題ないのだけど、何故か特定の単語に関して聞くとデタラメな答えが返ってくる。最初に発見されたのは「深化」という言葉だ。(このキーワードはテストに出るので頑張って覚えた)
「深化とはアメリカ大統領の名前です」「東北地方の伝統的な料理の名前です」「1990年代に放送されていたバラエティ番組です」「猫の鼻腔にある感覚器官の一種です」「色の名称で、虹を構成する一つとして知られています」「西暦4700年から使用されている日本の通貨単位です」
そんな感じで、同じAIでも違うAIでも、どれに何度聞いても、何故かすべて違う説明をした。しかもそれらしく参考文献などもでっちあげるものだから、それだけ見たら普通に信じてしまいそうになる。もちろんそんな文献も全部嘘っぱちだ。
そこから調査が進んだ結果、他にもいくつかの単語で同じような現象が発生することが確認された。専門家の人達が対処はしたものの、未だに原因は分かっていない。
その結果、AIが関わっている情報の信頼性が一気に崩れた。何か今を調べる時には辞書を使うべきというのはもちろんのこと、ネット上にある書籍類も嘘が混じったり改変されていないとも限らない。
正しい情報を得たいなら紙の本を読め。そんな流れが社会にできた。それが前提にあったから、書籍の規制に対して早々に決着したというのもあるらしい。
そんなこんながあって、白田書店は今も細々と経営を続けていられる。
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