第6章 かがみよ、かがみ、かんがみよ(5)

 土曜日の昼下がり。

 レジカウンターの椅子に座り、カウンター上に置いたコンパクトミラーを覗き込みながら、自分の頬をぐにぐに押したり引っ張ったりしていると、突然上から声が降ってきた。

「——なにしてんの?」

 パッと顔を上げると、そこには怪訝な顔でこちらを見下ろしているお姉さんがいた。私は慌ててカウンターの内側にミラーを隠す。

「あ、キョージュ! いらっしゃい!」

「取寄せ頼んでたやつ、来てる?」

「届いてるよー。ちょっと待ってね」

 レジ裏の棚から目的の書籍を取り出し、ちゃちゃっとレジ操作を進める。袋なし、カバー不要、支払いはいつもの電子マネー。すべていつも通り。

 キョージュは我が家が経営する白田書店の常連だ。うちの母とは高校時代の同級生らしい。母がキョージュと呼んでいるのでいつからか私もそれを真似している。本名は知らない。いつも表紙を見るだけで眠くなりそうな専門書をうちで買って行ってくれる貴重なお客様である。

 うちみたいな小さい町の書店は、日本中を探してもなかなかの絶滅危惧種ないんじゃないかと思う。ひいじいちゃんの代から続く大切なお店だけど、不況だったりネット通販が流行ったりで、両親は何度も畳もうかと思ったらしい。


 そんな書店にとって救いとなる出来事が2つあった。

 1つ目は、MenDACoシステムの登場だ。新しい法律では、ストレスを感じさせるような行為が違法になった。そのせいで、ドラマや映画が一斉に自粛した時期があった。今ではだいぶ復活してきたけど、それでも昔に比べたらかなり減った。実際にドラマや映画作品が違法と処罰されたりした訳ではないけど、制作してる人達からしたらいつ罰せられるか分からない状況で世に出すなんて出来なかったんだと思う。

 そんな中、いつでも好きな時に好きなペースで読めるからストレスコントロールが出来るってことで、本はその自粛の流れには乗らなかった。その結果、書籍ブームが起こったというワケ。

 本当は本も規制対象として取締り直前のかなり危ないところにあったらしいんだけど、全国の出版社、書店員、そして司書さん達が連盟を作って国と戦争を起こしかねないレベルの猛抗議運動があったとかなかったとか。

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