第4.5章 感傷、感情、干渉(2)
それでも、やっぱり年頃の時分には、どうにもならない「わがまま」が心に生じることはある。
その日は、学校の授業参観日だった。残念ながら少し前から入院していた母が参加することなど出来るはずもなく、仕事に追われる父が休みを取ることなども叶わなかった。
それでもいいと、頭では思っていたはずだった。仕方がないんだと、納得していたはずだった。
少なくとも、朝食のトーストを齧りながら、申し訳なさそうにする父に対して「別に良いんだって、気にしないで」と口に出した言葉に嘘偽りはなかった。
けれど、教室の後ろに立つ友人達の親と、そんな親達に照れくさそうにする友人の顔を見ているうちに、何かが揺らいでしまった。
学校が終わってから、母の入院する病院へと向かった。着替えを届け、洗濯物を回収するための、いつもの流れだった。
病室に入り、母のベッド脇にある棚から袋にまとめられた洗濯物を回収し、代わりを入れる。いつもであればその作業をしながら、その日に学校であったことなどを報告したり他愛のない会話をしているはずだったのだけど、その日はうまく喋ることができなかった。
子供なりになんでもない風を装ってはいたつもりだけど、母親の目を誤魔化すことなど到底できないような粗末な演技だったのだろう。
察した母は「おいで」と呼び寄せるのと、優しく抱きしめてながら言った。
「辛いとき、悲しいときは、泣いていいんだよ。悔しいときとか、腹が立ったときとか、人にはいろいろな感情がある。それが出てしまうのは、心が元気な証拠だから。それが自然なことだから。いっぱい怒って、いっぱい泣いて、それからまた笑えばいい。だから、いいんだよ」
母の肩に顔を埋め、頭を撫でられながら、ただぽろぽろと涙をこぼすことしかできなかった。
小さな声で「ごめんね」と言った母の言葉には、最後まで何も返すことはできなかった。
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