第4.5章 感傷、感情、干渉
その人は大病を患っており、何度も入退院を繰り返しながらも、それでも懸命に「母親」であろうとしていた。
しばしば叔母の手を借りながらではあったけれど、必死に家事と育児をこなす姿は紛れもなく「母親」であったし、そこには確かに愛情があり、そんな母が自分も大好きだった。
他の恵まれた家庭と比べれてしまえば、どうしても不幸と呼べるものもあったのかもしれないけれど、幸いにもそんな相対的な幸福度で人生や自身の家庭を悲観するような子ではなかった。
それもきっと、母の育て方が良かったからなのだと思う。
まだ幼かった自分はその病気について詳しくなかったけれど、日々の生活を当たり前に過ごそうとするだけでもキツいんだろうということは察していた。毎日沢山の錠剤を飲み、時に脂汗にまみれて青白い顔で床に伏せる姿を見れば、そんなことはいやでも分かる。
——だが、それでも母は笑顔を絶やさなかった。
「嬉しいことや楽しいことがあったとき、人は笑顔になるでしょう。反対に、笑顔でいれば、そんな嬉しいことや楽しいことの方からやってきてくれるんだよ」
そんなことを母は教えてくれた。
そんな母に、自分も日々笑顔を返せるように努めた。
嫌な言い方をすれば、ある意味で「空気を読んで」いたんだろう。
そうあるべきだと察し、聞き分けのよく、これ以上の負担を母に強いるようなことのない、良い子であろう。今にして思えば、そんな意識が、心のどこかにはあったのだと思う。
だから母の前で、ネガティブな感情を出すことはなかった。
実際、自分の努力などを抜きにしても、幸せな日々は享受できてきて、大きな不平不満もなく平穏な毎日であったお陰ではあるのだけれど。
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