第5章 静かなる海(5)

 目的地の駅で電車を降りて改札を抜けると、データセンターの職員がロータリーに車を停めて待機していた。シルバーのMenDACoデバイスを携えたその職員は比較的若く、ナギとさほど変わらない年齢に見えた。車は街でよく見るような黒のワンボックスカーだったが、スモークガラスになっていて車内の様子は外から分からないようになっている。職員と軽い挨拶を済ませ、ナギは後部座席に乗り込んだ。

 スマートフォンを取り出して、予定通りに合流した旨について入堂課長へメッセージを送る。丁度そのタイミングで、画面上部から通知ウィンドウが現れた。勾留が続いていた天鶴モズの起訴が決まったというニュース速報だった。高海ハヤテの家に匿われていたその人物は、テロの首謀者として裁判にかけられることとなった。

 ナギとして意外だったのは、元々逮捕されていた情動解放同盟のリーダーは無実だったということだ。設立者として率いていたはずが、いつの間にか天鶴に乗っ取られていたらしい。元リーダーとしては今世間に知られているような過激集団としての活動は否定的だったらしい。そんな中でリーダーだからと真っ先に捕まってしまったその人が少し気の毒に思えた。あくまで情報源はワイドショーなどで語られているものなので、真偽は定かではなかったけれど。


 ナギが唯一関係者として警察から教えて貰ったことと言えば、高海ハヤテが奇跡的に一命は取り留めたということだけ。かなりの重体のため当分病院から動けないだろうとのことだったが、正直に言えばそれはどちらでも良かった。

 予想通り、ナギの通報によってハヤテの家に向かった警察は天鶴を発見し、拘束した。

 想定通り、テロに加担されそうになり、それに抵抗したことによる正当防衛として処理された。

 その時点で、そこから先はナギからすれば大した問題ではなかった。

 

 二人の間にあったのは、意見の相違。

 ただそれだけの話だ。


 これから行うリリースによって、世間、社会、そして世界はより良い方へ向かって行く。ナギはそう信じている。

 変わり行く街の中で、変わらない平穏の為に、ナギは今日も生きていくのだった。



 深空ナギ編 完

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