第4章 次の一手に至る一歩(3)
システムのリリース直後というのは、いつも慎重にならざるを得ないタイミングだ。それまでにどれだけテストを徹底して不具合を潰していたとしても、テスト自体を実際にシステムが稼働している実環境で試す訳にはいかない。検証環境だとかステージング環境などと呼び方は様々だが、あくまで模倣環境を用いているために、どれほど実際と近しい設定にしていたとしても何かしらの差異がある可能性は捨てきれない。些細な違いがバグの引き金となり、現在運用されるシステムが停止するようなことがあれば一大事だ。
そのため、問題が起きた時の為に監視期間を設けておき、必要に応じて即時対応が可能な体制を整備することはシステム開発の現場であれば多くで採用されている。
万が一はあってはならないが、あったとしてもリカバリー可能な備えをすることが重要だ。それは共通理解として有している為、その対応に不満を漏らすメンバーは居なかった。
「とは言っても、2.0の稼働自体はもう少し先なんですよね?」
ナギの問いかけに入堂は頷く。
「その通り、今回はハード側の稼働に先んじて中身をアップデートする対応なのでね。ただ聞くところによるとあちらさんも順調に進んでて、予定通り9月末には動かせるらしいよ」
「そうなるコトですと、その時にまた交替のメンバーで監視をするデスか?」
チョウさんの質問には、入堂は軽く首を横に振った。
「いやぁ、ウチとしては今回ほどの体制は組まないかな。念のために要員は一人ぐらい確保するけど、基本はネプトンさんメインで備えて貰うつもりだね」
ネプトン情報システム株式会社はMenDACoシステムの保守に関する一部を業務委託している協力会社だ。MenDACoシステムはノーチラスシステムだけで担うにはあまりにも巨大だった。そのため、日々のモニタリングや問い合わせ対応などの切り分け可能な範囲を外部企業に頼っていた。
しかし、主要部分だけはノーチラスシステム内でのみ対応を行う。特に今回のバージョンアップは、MenDACoシステムにおける重要度が相当に高い。最初に竜宮社長が描いた未来絵図は、単にMenDACoシステムを普及させれば終わりではない。その全容はごく限られた者しか知らず、ノーチラスシステムの社員で把握しているのは役員クラスのみだ。
——それでも、そのロードマップにおいて重要なマイルストーンがいくつか存在していること。そして、今回がそれに当たるという認識は全社員がブレなく有していた。
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