第4章 次の一手に至る一歩(2)
その日の午後。
ミーティングルームには、入堂課長をはじめとした1課のメンバーが揃っていた。一部はテレワーク中のため、ウェブ会議ツール越しでの参加だが、それでも同じ課に所属するメンバーは一堂に会するのは珍しい。今回の主題は来月に迫ったシステムリリースについてだった。
保守業務として日々システム修正は行っているため、その都度リリース作業は実施されている。例えば値の設定条件を修正するだとか、数値の桁数について微調整を入れるような、そんな細かなメンテナンスによって既存のシステムを正常に動かし続けることが目的のものだ。どんなシステムであっても一度完成させたら終わりということはなく、動かしてみて初めて分かる課題があったり、システム自体に誰も気付かなかったバグがあったり。あるいは、どれほどシステムが完璧であっても、それを運用する環境側の都合で適応のための変化を求められることもある。
プログラムという実体の見えない存在である故に一般人には伝わり難いことではあるが、自家用車や家電のように日々のメンテナンスが必要となるものだ。
しかし、今回のリリースは少し毛色が異なる。
全員が揃ったことを確認し、入堂課長は社員達に向けて語り出した。
「——えー、というわけでね。皆さんのお陰で、MenDACoシステム2.0開発プロジェクトも、残すはリリースのみとなりました。ほとんどは
そう言って入堂課長は笑顔で軽く頭を下げる。神近とはMenDACoシステムの立上げメンバーの一人であり、ナギの尊敬するエンジニアの名だ。彼が会社を去ったのはバージョン1.0がリリースされた直後だったが、その後の構想自体は当初から計画されていたため、その後のことも全て織り込み済みで設計と計画の大部分を作り上げていた。残された社員達はその計画をなぞったに過ぎない。
「ま、皆さんには釈迦に説法かもしれないけど、リリースしたら終わりとならないのがシステム開発なのでね。リリース後の稼働監視は期間は土日も交替で待機になるので、申し訳ないけどそこだけよろしくね」
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