第3章 論理的放棄と非論理的蜂起(7)
「というか、ナギこそ例の彼とはどうなの?」
「あー……」
彼とは高海ハヤテのことだ。ハヤテについてナギは何度かミヅキに話していた。彼という人間とどう接するべきか決めきれていないナギは、自身の思考を整理する為にも言語化しておく必要があった。
「相変わらずぼちぼちデートはしてるんでしょ?」
「うん。この間も水族館行って、傘を買ってもらった」
「また水族館かい! 好きすぎるでしょ……いや、人の好みにイチャモンつけるのはアレだけどさ。そんで、プレゼントに傘?」
その日、水族館から帰ろうとしたところで、予報にないにわか雨が降り出していた。ナギとしてはそこまで気にするほどではなかったのでそのまま行こうかと思ったのだが、ハヤテはそんなナギを「体を冷やして万が一風邪を引かせる訳にはいかないから」と必死に引き留め、お土産売り場で傘を購入してきた。
それは薄い青のビニール傘で、目立たない程度にところどころ魚やクラゲがプリントされていた。傘を開いて内側から見ると、水槽を覗いているような気分になれるというものだった。
その経緯を説明すると、ミヅキはビールを数口飲んでから長いため息を吐き出した。
「なんだか中学時代を思い出すわね……。まあ仲睦まじくやってるなら結構。で、それはそれとして進展は? 前に話した時、アドバイスしたよね?」
「彼の家に呼んでもらえってやつなら、汚すぎて無理だって」
「あー、そうきたか……。確かに話聞く限り、ちょっとだらしなさそうだもんなー。その答えも分からないではないというか、さもありなんっちゅーか」
片付けのできない男は人としてどうのこうのとミヅキはぶつぶつと文句を吐き出す。どうやら以前付き合っていた男性がかなりズボラな人間だったらしく、そこからはミヅキがその男にどれだけ迷惑をかけられたかという思い出話へと話題が移行していった。
その男が家庭用MenDACoワイヤレス充電ポート(通称タコノマクラ)を洗濯物に埋もれさせたせいで踏んで壊し、危うく充電切れによるMenDACo不携帯で警察に捕まりかけたという一連の話が終わったところで、今日はお開きとなった。
「まあ、そのハヤテって男がどんな奴かはよく知らないけど、自分の直感に従ったら良いと思うよ」
そんなアドバイスを残して、ミヅキは帰って行った。その言葉を反芻しながら帰路に着く。
果たして、自身の直感は彼をどう評価しているのか。それをまだナギ自身が理解出来ていない。そこが何よりの問題だった。
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