第2章 選択しない選択、或いは選択肢のない選択(7)

 話題は互いの趣味について移る。

 ナギはミステリ小説を読むのが好きと伝えるとハヤテは「そりゃそうっすよね」と笑った。

 今日見た映画の原作者が書いた他の作品も読んだ事や、それ以外で最近読んだ本について簡単に説明するナギの話を、ふんふんと相槌まじりにハヤテは聞き入る。

「ハヤテさんは、何か趣味とかは?」

「そうっすね。趣味って言えるか分からないっすけど、水族館は好きっすね」

 時々気が向いた時に近くの水族館に足を運び、一人でなんとなくぶらぶらと見て回る。そんな休日を過ごすのだとハヤテは語る。

 水流に流されるクラゲを見るのが好きらしい。

「いいですね」

 流れるクラゲの件はよく分からなかったが、水族館はナギも好きだった。

 ハヤテがたまに行くという水族館も知っていたし、なんなら年間パスポートも購入していた。年に3回行けば元が取れてしまう価格設定なのだが、月一ペースで利用している。

 それを伝えるとハヤテは「おお!」と嬉しそうに声を上げる。

「マジっすか! まさか同志だったとは! いやー、年パスは盲点だったっすね。ほんと、なんとなくで生きてるもんで、そういう損得計算みたいなの出来ないんすよ。次行く時は絶対買わねば!!」

 海は良い。

 深海生物が好きなナギだが、深海に限らず海洋生物は気に入っている。水の中で必死に泳ぎ、漂い、生きている彼らは何よりシンプルで、解し易い。

 それからナギとハヤテは、好きな魚の種類や、過去に行ったことのある他の水族館について語り合った。

 その結果──



「じゃ、次は水族館で!」

「……えっ。あ、はい」

 いつの間にか、次は水族館で会う約束を取り付けられていた。

 存外ナギは押しに弱いのだが、彼女自身はまだその事を自覚していない。そもそも、彼女に対してそこまでの勢いでグイグイ来るタイプというのは、これまでには彼女の周囲に居なかった。初遭遇であり、圧倒的に経験不足だった。

 次のデートの日取りが決まったところで、ハヤテはバイトに向かわなければならず、今日はお開きの流れとなった。ナギはバス、ハヤテは電車に乗るということで、駅前で解散することになったため、2人で歩いて最寄りの駅へと向かう。その間も他愛のない会話が続いた。

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