第2章 選択しない選択、或いは選択肢のない選択(2)
WHATA*2MEは言語処理機能と併せてカメラによる対話者情報の解析によって、高度に自然な対話を実現させることに成功した。現在ではどこの役所でも窓口に行けばWHATA*2MEを用いたサポートAIが案内をしてくれる。
それに続くように導入を進める企業は多い。最近ではカスタマーサポートの対応の8割が人からAIに置き換わって来ているという。
──それでも。
すべてがAIに取って代わられることは、ない。
例え、人間が対応するよりも柔軟で、高度で、リッチなサービスが受けられるとしても、人間と相対することを求める人は、少なからず居る。
そんな「残り」の為に接客業に従事する人々のストレスをMenDACoは和らげている。
感性のみで動く人間に明確な理屈はない。それに直面することでどれほどの心理的負荷が発生するのか、そんなことなどお構いなしに、厄介な客は理不尽な要求を投げかけて来る。
重要なのは、そこに悪意がなくとも人は悪魔になれるという点であると、ナギは思う。
所謂クレーマーと呼ばれる内、悪意を持ってそのような行動を取っている人間が果たしてどれだけいるのだろう。当人にとっては至極真っ当な要求であり、相手側の捉え方など二の次となった時、地獄は生まれる。
だからこそ、人付き合いは厄介だ。
学校の道徳で「相手の気持ちになって考えよう」と繰り返し教え込まれるのは、裏返して言えば人間はそう学ばない限りはそれがデフォルトの挙動になっていないことの証左ではないか。
相手が何を考え、どう思ったが故にその言動として表出化したのか。
それを踏まえて、相対する自分はどう動くべきか。
良く言えば思慮深く、悪く言えば考え過ぎるナギにとって対人コミュニケーションは非常にエネルギーを使う作業であり、その結果彼女とって「非効率的な」人付き合いは極力避けていた。
基本的に人と関わるのは会社でのみ。休日は一人で出掛けて一人で過ごす。それが彼女にとっては普通の日常だった。
そんなナギが今、デートをしている。
「どうします? 飲み物何が良いっすか? ポップコーン食べます? 普通の塩でいいっすかね? あ、キャラメルとのミックスもいいっすね!」
「──ドリンクは、アイスティー、ストレートで。ポップコーンは、お任せします」
「了解っす! 買って来るんで待ってて下さい!!」
そう言ってフード売り場へと向かう高海ハヤテの背中を眺めながら、ナギは手近な壁に背中を預けた。
思わず口から薄いため息が漏れる。完全に彼の勢いに気圧されていた。
土曜日、ナギはハヤテと映画館に来ていた。何故このような事になったか、話は昨夜に遡る。行き倒れていたハヤテとの初邂逅から1週間後の事だ。
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