2章

第33話 こっ、この輝きはまさかっ!?

「身長は……ギリオッケー。欲を言えばあともう少しだけどまだまだ成長の余地はある」


 14歳……遂にここまで来た。僕の人生のターニングポインッツ!


 というのも天命てんめいしるべを与えられる儀式を受けられるからである。これはほぼ女神の加護と言ってもいい能力。神が降りてこればの話だが選ばれれば激アツ展開間違いなし!


 だがそれは人生成功したいやつだけなのだ。僕は加護なんぞの力に頼らず己の力で裏社会の頂点に立ちたい。まだそんな事言ってんのかと思われるがまだまだ計画は進んでいる最中なのだ。


 よってここで加護を貰うのは無茶苦茶嫌なので天命てんめいしるべの前日まで女神に不敬を働きまくった。


 流れ星にも願ったので流石に舞い降りてこないはず。


「レイン・フォルネル……こちらに」


 ちなみに僕の家名は一身上の都合変わっている。


「はい」


 そんなことはどうでもいいんだ。僕は今から選ばれない人間にならなくてはいけない。罰当たりを繰り返した効果をぜひ見てもらおうじゃないか。


 意外に質素な装飾。


 加護はあの水晶を通して見えるんだね。


 女神の加護が降りてくるんだからもう少し豪勢かと思ったけど資金がなかったか。


 最後の最後に不敬を働いていざ出陣。


「むう……降りてきませんな」


 よし、勝った。


「あっいや……!?」


 な、なななどうした!? まさか舞い降りたとか言うんじゃ……。


「あー気のせいか」


 ほっ……良かった。司祭の勘違いで済んだならそれでいい。まったく心臓に悪いからやめてほしいものだ。


「はぁぁぁっいやっコレはっ!?」


「な、なに!?」


 司祭め! 水晶がキンキンに光ってるぞ! お前何をした!


「この輝きはまさか!?」


 嘘だろ!? あれだけ不敬を働いた僕に加護を与えるつもりかよ。それも相当輝いている。終わった……加護の中でも強い加護を引いたパターンだ。


 すると髪の毛のない女神の信徒が、申し訳無さそうにこちらに視線を向けていた。


「おっとこれは失礼」


 あいつが一歩下がった時、光っていた水晶は元の状態に戻った。


「丁度頭が熱くなりまして。気づけば水晶に光が灯ってしまいました、お恥ずかしい」


 お前の頭すげえな。反射率100パーセントかよ。


 ……なんと紛らわしい。


「レイン・フォルネル、あなたには女神の加護がないようです。それではお下がりくだ──ん!?」


 おいおい次はなんだよ。


「す、水晶が割れている!? まさかそれほどまでに凄まじい加護を!?」


 さっきのハゲ閃光のせいだろうが!


「レイン・フォルネルもう一度確認します」


「えっと加護はないはずでは……?」


「申し訳ありません。しかし水晶が割れるほどの加護の持ち主を見逃す事もできないのです」


 いやだから絶対にハゲ閃光だって。


「代わりのものでお調べいたします。さあこちらに」


 司教、なんかその水晶はじめから光ってるしなんか肌色だぞ。


「おほぉ……やはり手をかざすまでもなかったというのですか。この輝き、きっと聖女クラスの──」


「大司教、それは私の頭でございます」


 さっきの信徒が申し訳無さそうに顔を上げる。


「これは失礼。歳になると目が霞んでしまって……」


 わざとやってるだろうが。


 ほら見てみろ、遠くで待機してるマリアが必死に笑いを堪えている。教会ギャグは良いからさっさと終わらせてくれ。


「では改めてレイン・フォルネル。あなたは女神のご加護があるようです。しかしあまりにも弱々しい……あまり頼りすぎないように己の力を磨きなさい」


 結局あるんかい。まあでも良かった。全然強そうな加護じゃないらしいし気にせずに生活できそうだ。


「あーお腹痛いっ」


 教会を出た僕たちはそのまま村へ帰ろうと王都の門まで歩くことにした。


 しかしどうやらマリアはまだツボに入っているらしく歯を食いしばりながら笑っていた。


「で、でも良かった。私にもレインにも加護あるって。あっはっはっ」


「いつまで笑ってるんだ。困っていたのは僕の方だぞ。目立ちたくないのに」


「ふぃー……そろそろ落ち着いてきた」


「の割には顔がニヤけてるけど?」


「気にしない気にしない」


「ふーん。ところで何でいちいち教会で加護の確認したの? 教会じゃなくても15歳になったら自分でわかるもんじゃないの」


 鼻で笑いながら何故か自信満々……。一卵性の双子だから若干セリアの性格がでてきてんのか?


「教会で加護の証明ができれば騎士団や聖騎士団になれる。ま、ちゃんとした学園に通って卒業したらだけど」


「ちょっと待って。村でゆっくり暮したいとか言ってなかった? それでマルセと揉めたんだろう?」


「そうだね。前まではそうだったよ」


 前まではってことは今は全然違うってことじゃないか。


「なんで今更。農業するとか言ってなかったっけ?」


「あれは嘘。本当は狩人になりたかったの」


「じゃあ聖騎士じゃなくてそっちにすれば良い──」


「あのクソ親父を見返したくてたまらなくなったんだよ。ここ最近ずっと悪夢に襲われてさ」


 おいおいだからって僕を巻き込むつもりじゃないだろうね。


「もちろんレインも一緒にくるよねっ。まあ拒否権ないけど」


「はっ!? それどういう事だってばよ!?」


「聖騎士団専門の学園に入学届け出しちゃってるから」


 やってくれたなこのバカは。


 よりにもよって聖騎士……。入学の意思ありと判断されれば取り消すことはできない。僕が加護持ちじゃなかったらどうするつもりだったんだ。


 それに聖騎士の応募は限度がない。


 つまり入学試験自体ない。つまり周りがどれだけのレベルかわからない。つまりどんな人たちがいるのかがわからない。つまり僕みたいな地味な奴は雑用騎士になるかもしれない。


 つまり!


「モブ騎士やん……」


 前線で名も無く散るアレ。行方不明になっても探されない存在のアレに。


 そんな騎士になるぐらいだったら村で農業してたほうがまだマシ──。


「はっ!?」


「どうしたの?」


 でも待てよ、逆に良いんじゃないのか。聖騎士団の一般騎士兼ゴミ箱掃除……だが実態は裏社会のドンとして君臨する闇ギルドのおさ……的な。


 本当は表では農民やってまーすってするつもりだったけど、まさかのマッチング。ありがとうマリア、そして加護をくれた女神よ。


「いや……なんでもないよ。実は僕もマルセの驚く顔が見たかったからさ」


「言うと思ったよ。ところで聖騎士団って卒業までの難易度かなり高いらしいけどレインなら大丈夫だよね?」


「もちろ……えっ? 難易度高い?」


「うん、課題が多くて試験も頻繁にあるらしい。イベントも多いけどほとんどが試験絡みのイベントかな? 大丈夫そ?」


「は……」


 許さないぞマリア、そして加護をくれやがった女神よ。


 異世界でも苦労しなきゃいけないってどういうことだ。まさか今日という日が地獄の始まりだとは思わなかったぞ。

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