【短編】義妹になった幼馴染が、俺を攻略しようとしてくるのだが、俺も攻略されたいだなんて言えません。
空豆 空(そらまめくう)
よみきり「起きないと、キスしちゃうぞ?」
――コンコン、コンコン
鳥のさえずりと共に、遠くでドアをノックする音が聞こえる。
けれど俺――
「おにーいちゃーん。ねぇ、おーにーいーちゃーん」
ドアの向こうで声がする。けれどやっぱり俺の身体は動かない。
「……まだ寝てるのかな。……入っちゃお。入っちゃうよ? ねぇ」
もうすでに扉を開けながらそんな事を言っているのは、この度親の再婚により俺の義妹となった
「うわー。陣の寝顔、久しぶりに見たー。……可愛い」
眠る俺の顔のすぐ傍で、葵がぼそっと呟いた。
(可愛い? 俺が? ウソだろ。むしろ葵の方が100倍可愛いだろ)
心の中でそんなことを思いつつ、俺の身体はまだ眠気から覚めていなくて。
頭が働く割に、身体はまだまだ寝息を立てていた。
「ねぇ、おにーいちゃーん。朝だよ。起きて。……起きないと……キス、しちゃうぞ。……なんてね」
俺が眠っていると思っている葵は、冗談交じりに囁くような声でそう言った。
(は? ……キス? 俺、起きなかったらキスされんの? ……むしろ大歓迎なんだが? てか、なに。葵って、俺のこと好きだったの? いや、そんなわけないよな、片や学園のカースト上位、そして俺は冴えないモブ男。ただの聞き間違いに決まっている)
なんて心の中では饒舌に思いつつ、疲れというものはこうも身体を駆逐するものなのか。引っ越しの手伝いに体力使い過ぎて、身体が思うように動かない。
「……ほんとに寝てるのかな、陣くん。……もうちょっと寝顔眺めてたいな」
そんな俺の目の前で、葵がぼそっと呟いている。好きな子が俺の寝顔を眺めているなんて、こっちが夢でもおかしくないこの状況、けれど葵がいつも使ってるヘアオイルの香りが微かに漂っていて、これは現実だと言っているような気もする。
「……夢みたいだなー。好きな人とこうして一緒に暮らせるようになるなんて。……パパにゆかりさんとの再婚、猛プッシュしてよかった。パパったら奥手過ぎて全然進展しなかったもんな……」
(……ん? 今なんて言った。好きな人って言った? それって俺の事? ウソだろマジかよ、しかも葵の父さんと俺の母さんが再婚したのって、葵が猛プッシュしたから!?)
待て待て待て、この話、もっと詳しく聞きたい。けれど、俺が起きてしまったら葵はもう話してくれないかもしれない。
だって、普段の葵はこんなこと、絶対言わないのだから。
――よし、決めた。俺はまだしばらくこのまま寝たふりを続けるぞ!!
そう思った時。葵の指が、俺の頬をつんと突いた。
「おい、こら。ほんとに寝てるの? ウソ寝だったら許さないんだからね」
(え、なに、やばい、これ、ホントは起きてるってバレた? でも、ここで起きたら葵の本音がもう聞けなくなってしまうじゃないか!!)
かと思ったら、葵の指が俺の頬をふにふにと触った。
「……寝顔、可愛すぎるんだけど。やっぱ、好き。……なのに、私ったら、なんで陣くんが起きてる時は素直になれないのかなぁー」
(なに、なになになになに、なに――!! やっぱ葵、俺の事好きなの? マジ? なんで? いつから? もっと聞きたいんだけど!!)
だんだん俺も興奮してきて、葵の独白を聞きたくて仕方がなくなってきた。これはもう、起きるわけにはいかない。なんとしても。
「……ほんとに起きないじゃん。……このまま、告白する練習、しちゃおっかな? ねぇ、陣くん。可愛い幼馴染が愛の告白しようとしてるよー? 起きないの? ねぇ」
(いやいや、起きるもんか。だって俺が起きてる時はしないだろう、本人目のまえに告白の練習なんて!! だから、今、聞きたい。葵の本当の気持ち!!)
俺は口元が緩みそうになるのを必死で堪えた。……こういう時、寝たふりするのも楽ではない。けれど葵の告白(の練習)を聞くため。俺は必死で表情筋が動かないように堪える。
「…………陣くん。子供の頃からずっと……。ホントはずっと……、大好きでした。私と、付き合ってください」
――ドキッ
思っていたよりもマジな告白に、俺の心臓が勝手に激しく脈打った。
ふわーっと、顔に熱が込み上げてくるのが自分でも分かった。
「あれ? ねぇ、……陣くん。起きてるでしょ。ほっぺ、赤いんだけど! ねぇ、起きてるんでしょ。……恥ずかしいんだけど!!」
「……………………」
やばい、バレた!? いや、でも、ここで俺、どんな顔して起きたらいいの。
『寝たふりして聞いてたけど、俺も好きです付き合おう』なんて、言えるわけないじゃん。そんな勇気があれば、とっくに告白してるっつーの!!
「もぉ……バレてるんだからね? ……早く起きないと、本当にキス……しちゃうぞ?」
やけに今日の葵は積極的で。なに、起きなかったらキスしてくれるなら、俺はもう絶対に起きないけど!? だって、されたいし。健全な男たるもの、好きな子からのキスとか、されたいに決まってるじゃん。
読者のみなさんはお気づきだろうか。俺には男らしさなんてものはないのだ。だからこそ、こんな俺を葵が好きだなんて信じられなくて。行動にも起こせないのだ。
だから、逆に言えば、これが俺が出来る精一杯の行動なのだ。
なんて心の中で言い訳を並べていると、葵の指が俺の唇に触れた。
――ビクッ
思わず身体が反応して、唇が震える。
(でも、俺は起きない。だってキスされたいから。絶対、起きないぞ!!)
「あー!! ほら、起きてんじゃん!! 陣くんの、バカ。もう……そんなのホントにキス、して欲しいみたいじゃん……」
葵の声もなんだかさっきより甘味を帯びていて。ドキドキしているのが伝わって来る。何、照れてる? 照れてるよな? これ。可愛いんだけど? こんな葵、見たことない。いや、寝たふりしてるから見えないんだけれど。
俺が絶対に寝たふりを決行すると心に強く決めた時、葵の指がさらに俺の唇をなぞった。
――ビクビクッ
反射的に、俺の唇が微かに震える。
(うう、やばい、なんか……やばい。ドッキドキする。俺が起きなかったら、……葵は本当にキスしてくれるのだろうか)
気になって仕方がなくて。胸の鼓動がヤバくって。このまま、キス――されてみたくて。俺はバレバレだと分かっているのに寝たふりを続けた。
そしたら――
ギシッとベッドが沈んで、葵が俺のそばに手をついて、俺の唇の傍に顔を寄せたのが気配で分かった。
(うっわー。やっばいやっばいやっばいやっばい!!)
葵は、その甘い吐息が俺にかかるくらいの至近距離で、囁いた。
「……陣くんの、ばか。やっぱり起きてるんじゃん。なのに寝たふりするなんて……ほんとに、したくなっちゃうよ。ねぇ、ほんとに、しちゃうよ? キス。こんな気持ちにさせといて、やっぱなしとか……怒る、からね?」
――ドッドッドッドッドッドッドッド
その、いつもの葵らしからぬ恥ずかしそうな、胸のドキドキが伝わって来そうな声に、俺のドキドキまでが加速する。まるで心臓が飛び出しそうだ。
(いやいや、やっぱなしなんて言わないから!! 寝たふりしてる限り言えないから!! むしろ俺の方こそ、今更なしとか嫌だから!! 俺だって……したくなっちゃってるから)
そう思った時、俺の唇のすぐ傍まで葵の甘い吐息が近づいて来たのを感じた。
そしてゆっくりと、ゆっくりと――その甘い吐息が俺の唇に触れる。
(うわ、俺、葵に――キスされるー!!)
そして何か柔らかいものが躊躇うように俺の唇に触れたかと思った時。
――パチッ
思わず開けてしまった目が、葵とバチッと合ってしまった。
「ちょっ!! な、んで!! こんな時に目、開けんのよ、ばかー!!!!」
「そ、そっちこそ!! なんで目開けんだよ!! 普通キスする時は閉じるだろ!!」
「そ、そっちこそっ!!」
口げんかになった俺達は、お互いに耳まで真っ赤になっていて。
触れたか触れないか分からないくらいのキスに、明らかに動揺してしまっていて。
「……陣くんの、ばかっ。せっかく朝ごはん作ってあげたのに。もう、あげない!!」
葵は真っ赤な顔したままぷいっと顔を背けて部屋から出て行ってしまった。
「……え? 何? ……葵が朝ごはん作ってくれたって言った??」
(うそだろ、そんなの食べたいに決まってる!!)
「ちょ、待って、葵!! 朝ごはん!! 食べる!!」
朝から夢のような展開に、俺は慌てて幼馴染の背中を追いかけた――。
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