第17話 迷宮は続く
「俺がやるよ、あまり活躍できていないからな」
クロックさんが申し出た。
本来なら体力のあるジューロが適任だが、仮にも彼は勇者と言われる男だ。プライドもあるだろう、ただ助言はしておいた。
「単純で危険性の少ない仕事ですが、決して甘く考えないでください。私の予測では、ミノタウロスと力比べするくらいの体力が必要かと思います」
「え、そんなに?」
「はい」
「わかったよ、気合いを入れ直して行くよ!」
そう言ってクロックは挑戦を始めた。
私の予想は正しかった。クロックは何とか進んでいるものの、亀のスピードでしか進めない。それでもかなり頑張っている。
「アリーの見立ては正確だったわね、1時間かけて、まだ5分の1しかとは思わなかったわ!」
「いえ、想定以上です。このまま進んでクロックさんの体力が持つか心配です」
そんな私達のやり取りに耳を貸さず、一心不乱に進むクロック、勇者の名は伊達ではない。着実に進んでいるが、3分の2ほど進んだところで動きが止まった。さすがに限界だろうか?
「少し休憩するよ〜!」
まだ行けそうだ。
ようやく5時間かけてたどり着き、ロープを向こうの壁に杭を打ちつないだ。そこで力つきたようだ。
それからジューロと、ライコックさんがロープを伝って進んでいったが、数分でゴールしたジューロに対して、ライコックさんは2時間もかけてゴールした。私とビーシャ様は、ロープを体に巻いて引っ張ってもらった。
ぐったりしているクロックが言った。
「魔王との戦いでも、これほど頑張ったことない」
「ご苦労様、私にお任せください」
ライコックさんは、そう言うと、回復魔法をかけた。
「うお!凄い、みるみる体力が戻ってくるのごわかります。やはり天才的ですね」
「まあ、それほどでもあるかな?」
そう冗談を言って、場を和ませた。
まあ、みんなよくやったと思う。こうして10階層への扉を開いた。
この階層で私達の目に飛び込んできたのは月だった。本物の月ではなく、夜をモチーフにしてあるらしい。そして、森のように木がしげっている。これは危険だ。闇夜に紛れて何がいるかわからない、変な魔物の鳴き声もした。とりあえず通路に戻って、扉を閉め食事とることにした。
食事をとりながら話した。
「この階層からは情報がないです。レイコックさん達は危険過ぎるので、待機を命じられたそうです」
「え、今までも充分危険だったのに、こここらが本番てこと?」
「そうとも限りません。ここまでで見つけた財宝がかなりあり、一度に全部を持ち帰れないことを悟り、もう一度来ることを想定して、情報隠しを目論んだのかもしれません」
するとライコックさんが
「その可能性は高いですね、ここまででさえ、情報を記錄することを許さなかったといいます」
そう、無理に悲観的にとらえないこととし、具体的な作戦を話しあった。魔力探知で魔物は確認できても、罠を発見しにくいのが問題だ。つまり闇夜事態が罠のようなものだ。
「俺、さっきの魔物の鳴き声、聞いたことがあるよ、あれは、ブラックラウンダーだ」
ジューロに覚えがあったようだ。
これはやっかいだ。夜目の聞く大蛇で凶暴だ。
「それだけではなく、四つ目コウモリもいました」
ライコックさんが見たそうだ。
これも、厄介だ、人並みに大きなコウモリで、牙はかなり鋭く鉄の鎧を貫通する。
「これは他にも潜んでいると考えた方が良さそうですね」
「作戦を考えつきました。今日はもう、ゆっくり休んで、明日に備えましょう」
そう言って眠りについた。
よく朝、胸に圧力を感じ目をさました。もしかしてジューロか?そう思いつつ目を覚ますと、ビーシャ様だった。しっかり私の胸を掴んでいる。
「ビーシャ様!」
私は声をあげて起こした。彼女は私の胸を揉みながら起きた。
「アリー、おはよう!」
寝ぼけている。
「あの、ビーシャ様、私はそっちの趣味はないのですが」
そう言うと、慌てて、
「あ、ごめんなさい!つい触り心地が良くて」
他のメンバーも同時の起きた。
「え、どういうことだ、俺には駄目だって言ってたくせに、自分はいいのか?」
ジューロがご立腹だ。
すると、ライコックさんが、
「まあまあ、女性同士ですし、いやらしい気持ちがあったわけでもないでしょう」
ビーシャ様も、そうそう、と話しを合わせるかと思いきや、
「ごめんなさい、つい出来心で、前に触ったた時の感触が忘れられなくて」
「まあ、仕方ありませんね、ビーシャ様なら、でもまさか、エイビス様と3人でとか想像してませんよね!」
返事が無く、無言で下を向いている。
「わ〜、否定しないぞ」
クロックさんも非難すると、アリー様は開きなおった。
「私は信頼できて魅力のある人が好きなの、だからエイビス様とアリーを同じくらい思ってるだけよ、何が悪いの?」
「わかりました。私にそういう趣味があるかわかりませんが、努力致します」
そう言うと、ビーシャ様は喜んで抱きついてきた。
「ありがとうアリー」
皆はやれやれ、という雰囲気で納得した。
さて、10階層だ。
「作戦ですが、あの闇夜を明るくしてしまうのはどうでしょう」
「光魔法を使うということね、でも光の極大魔法は知らないから、上級魔法を使うことになるけど、ほんの1分ほどしか光らないわ、どうする?」
「それで構いません、最初の一撃は目くらましです。その後はこのシャインストーンを使います」
恐らく、暗い中に慣れてしまった魔物は動きが鈍くなるし、発見しやすくなるだろう。そこで一気に倒す算段だ。
「それじゃあ、行くわよ!」
みな、黙って頷いた。
「モアライトビュー!」
辺り一面が輝き、隅々まで照らした。そこで気づいたが、思ったより数が多い、100匹以上いた。こちらが見えない状況で100匹はかなり脅威だだったが、見えてしまえば簡単だ。
クロックと、ジューロが次々に魔物を蹴散らした。二人とも見事だが、ジューロの剣は、かなり洗練されている。やはり小さい頃から鍛えられていただけのことはある。
無事に全てを退治し終えた。
「二人ともご苦労様」
そう言って、ライコックさんが、また回復魔法を使った。
次の階層への扉を探していると、宝箱を発見した。どうせまた空だろうと思っていると、蓋が開いた状態で中身が残っていた。
「ラッキー お宝だ!」
ジューロが喜んで金貨を手に取っている。
しかし、他の皆が大事なことに気づいた。
「アリー、これって」
「そうですね、魔王軍が持ちきれなくなり、置いていったのでしょう」
つまり、必ずしも最下層まで行くまでもなく、途中で魔笛を発見するかもしれないということだ。
「よし、ここからは魔笛を探すことも視野に入れて進もう」
クロックが威勢よく声を上げた。
11階層へやってきた。
まったく想定外の光景だった。大きな空間で、森があり、川が流れ、暖かい日差しがある。森には豊かな果実が実り、川には魚が沢山泳いでいる。
魔物の気配はなく、気を休めることができそうな場所だ。
「こんな美しい場所があるなんて!」
ビーシャ様が感嘆した。
「確かに美しいですが、まず、しっかり安全を確かめましょう」
私がそういと皆うなずき、辺りを捜索した。
しばらくして集まり報告しあったが、
「どうやら、魔物も、罠も見当たりませんね」
「そう、次の階層への入口も見当たりませんね」
これは面倒なパターンだ。何か謎を解かないと次へ進めないのだ。
するとジューロが言った。
「ここは樹の実や、川魚が豊富だから、食料を確保して、腹ごしらえをしないか?」
彼の言は確かに一理ある、あせっても解決策は出てこない、落ち着いて仕切り直すのもいいかも知れない。皆ジューロの案に乗った。
それぞれ食料を採取してきた。どれも美味しかったが、特に、森で採れた桃は、大きくて甘く最高だった。
食べ終わると眠気に襲われた。意識が失われつつあるなか、しまったと思った。これで全員寝たところを襲われたら、ひとたまりもない。しかし、今更抗えない、z z z …
しばらくして目を覚ますと、全員無事だった。寝ぼけながらお互いを見合わせ、安全を確認した。
「あ〜、迂闊だったわね、これが罠だったら全滅よ」
「そうですね、ビーシャ様、でも無事でよかったです」
さて、改めてこのフロアの捜索に当たったが、数時間探して何も見当たらない。
とりあえずこの日の探索を終え、夕食を取りながら話し合うことにした。
「やはり、何か謎を解かないと進めないようですね!」
懐中時計を見ながら話したライコックさんが次の瞬間顔をしかめた。
「どうしたました、ライコックさん?」
わたしが尋ねると、
「まさか、時計が25日を表示しているのですが、壊れたのでしょうか、それとも……」
私たちはびっくりした。これが事実なら、このフロアへ来て、3日経っている計算になる。もう1人時計を持っている私も確認したが、間違いないようだ、3日経っている。
「これは何かの罠の可能性が高いわね、アリー、心当たりがないかしら?」
私は心当たりがあり、少し力を使ってみることにした。
「開け、私の書庫、魔物の棚、魔物の種類の書、ナイトメア」
「ありました。たぶんこれでょう」
「小さなキツネに似た魔物で、人々を眠りに誘う、無味無臭の瘴気を放つ。特に、心休まる場所で放たれると効果てきめん」
「まずいわね、すでに敵の術中ということね」
「はい、そういうことになります。寝たら次にいつ起きれるか保証はありません」
「その前に見つけて倒すしかないでしょう」
さて、何かナイトメアを見つけ出すヒントはないだろうか、先程からフロア内はくまなく探しているのに、何も見つかっていない。
するとジューロがまた、面白いことをいい出した。
「なんで地下に太陽があるの?」
みな、ハッとした。おかしい、それにナイトメアか魔法を使っているとすれば、魔力探知できないことも理屈にあわない。
つまり、皆、同じ夢の中にいる可能性が高いのだ。おそらくこのフロアに足を踏み入れた瞬間、かかったのだろう。
さて、起きるにはどうしたらいいのか、するとライコックさんがいい出した。
「この国に昔からあら伝説の魔物です。攻略法を知っています」
これは運がよかった、しかし、ライコックさんの顔色がすぐれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます