第14話 準備の障害
地図にあった場所は、孤児院だった。
覗いてみると、ライコックらしき人物が子供たちに囲まれて立っていた。
「あれ、王宮で紹介されたレイコックさんと似てない?」
確かに似ているが、雰囲気と身長が違う。
「似ていますが、少し違いますね」
「すみませ〜ん、こちらにライコックさんはいますか?」
「はい、私ですが」
するとせっかちなビーシャ様が、
「私達と、パーティーをくんでダンジョンに行ってもらいたいの?!」
「お断りします」
私はあせらずに、
「すみません、連れの者がせっかちで、少し話しを聞いていただけませんか?」
彼は少し困った顔をしたあと、
「少しだけなら」
「実は、私達は、神託を受けて来ました。ダンジョンの中にある魔笛を手に入れ、統制を失って暴走している魔物を制御するようにと」
「なるほど、重要かつ難しい使命ですね、しかし、参加できません」
「なぜですが?」
「見ての通り、私にはこの子たちを救う使命があります。従って、万が一にも、命を落とすわけにはいかないのです」
「でもこれは、世界を」
ビーシャ様がそう言いかけたが私が止めた。
「そうでしたか、子供たちを救うのも大事な使命です。頑張ってください」
「ところで、レイコックさんという方をご存じですか?」
「ああ、それは兄です」
「そうですか、どおりで似ていると思いました」
「お兄様は医師と聞いております。もしやあなたと同様に、S級ヒーラーですか?」
「いいえ、兄は医師として、知識や経験は豊富ですが、ヒーラーとしては、A級です」
う〜ん残念だ。S級しか認められないんだよな。
私たちは引き上げることにした。不安そうに見る子供たちも気になって、ゴリ押しは無理と判断したからだ。
「ちょっとアリー、あっさり下がっちゃってよかったの?」
「ええ、あの方には並々ならぬ決意を感じます。説得は無理でしょう」
「でも、何か考えがあるんでしょう?」
「はい、もちろんです」
目的達成のために、障害がある場合、それが何かわかれば、対策も考えやすいというもの、
「ビーシャ様、国王様に協力を頼みましょう。嫌がるようなら、脅してでも」
「それは楽しそうね!」
私達は、王宮を訪ねた。
「国王様、ライコックさんという方がやっている孤児院を、ご存じですか?」
私は単刀直入に聞いてみた。
「はい、聞いたことはあります」
私は、手短に彼が必要であることを説明した。
「という訳で、孤児院を国営にして、ライコックさんを解放してほしいのです」
「そ、それは難しいです。何しろ予算がありません」
「では、せめて代役をたててもらえませんか?」
「それが、人手も不足しておりまして」
「勇者クロックや、王女に頼めませんか?」
「本人たちが何と言うか」
「なら、呼んでください」
すると、いやいや二人がやって来た。
二人に事情を話すと、
「勇者である俺や、身分の高い王女に、孤児院の子供の世話をしろなど、傲慢だ、話しにならない」
それに対して、私は
「たった今、ヒュドラを退治してきました」
さっしのいい者なら、これだけでわかるだろう、自分達が不利であることが
「それは素晴らしい。あのヒュドラを倒すとは、ありがとうございます」
王様からお褒めの言葉をいただいたが、まだ気づかないようだ。
「まだ気づきませんか?」
「は〜何のことでしょう」
するとビーシャ様が、ため息をつきながら、
「は〜 本来、勇者の仕事でしょ、それをなぜ私達に依頼してきたか、酒場で話しちゃいそうだな〜」
「え、ちょっとそれは…」
クロックが気づいて慌てだした。高所が苦手なのをバラされたくないのだろう。
「それに、ヒュドラは二匹、オスとメスがいました。さらに卵まで、それを倒したことによる経済効果がわかりませんか?」
「え、卵があるのですか?」
王様が少し慌てて聞いてきた。
「ジューロ! た、ま、ご」
そうビーシャ様が言った。
「はい、はい」
そう言って卵を出した。
「この卵と、牙や爪、いくらになると思います? これを孤児院の足しにしていただいてもかまいません」
ビーシャ様が話しても、煮えきらない態度に私は説明した、
「温泉も復活するのだから、経済効果は計り知れません。それでも駄目ですか?」
「わかりました。何とかいたしましょう」
「待ってお父様、私はまだ」
「お前がやらないのなら、私がやる」
国王様が言ったので、びっくりだ。
「お待ちください」
侍従たちが慌てている。
すると、侍従のうちの1人が、
「少し時間をください、必ず結論をお出しいたしますので」
そうして、別の部屋に案内された。
「アリー、どうなるかしら?」
「もちろん受けると思います。あの国王様だけが、ヒュドラの価値に気付いたのでしょう」
「そんなに価値あるんだ」
「そうよジューロ、まずヒュドラの皮は、奴の出す粘液でも溶けないから、軽量の鎧を作るのに最適だわ、爪や牙は鋭く、剣の素材に向いてるの」
そう教えてあげた。
「それで、ざっといくらになる?」
すると、ビーシャ様か、
「それは私がルイルイから聞いたけど、金貨5万枚で買い取りたいって」
「何それ、それだけあれば、孤児院の運営くらい、余裕じゃん」
「そう、ところが、とっさに気づいたのが、国王様だけって、ばかな話よ!」
しばらくすると、ようやく結論が出たようだ。
「残念ながら、ご要望にお答えすることはできません」
侍従が言った。どうも国王様の姿がない。おそらく国王を信望する侍従たちのプライドが許さなかったのだろう。
予想外の返事に少し困惑したが、私は厳しく釘を刺した。
「わかりました。その代わり、決して私達の邪魔をしないでください。もしやったらグランディール王国の敵と報告します。よろしいですか?」
「そ、そんな大袈裟な」
侍従が慌てている。
「大袈裟ではありません。ダンジョンを攻略して、魔笛を手に入れることは、これから被害を受けて亡くなる人々を 大幅に減らすことになる重要なミッションです」
「ラメーノ王妃様は、放置すれば、一つの国家がつぶれさる可能性さえあると予想しております。あの方を信じられませんか?」
「確かに、ラメーノ様の言葉をないがしろにはできません。決してお邪魔をするようなことはいたしません」
邪魔をしないことの、了承を得たが、私は甘くない。
「では、その旨、国王様のサイン入りの書面でもらいたいのですが」
「そ、それは、言葉だけでは私達を信用できないということでしょうか?」
「はい、そもそも、今回のダンジョン探索は世界の平和がかかっており、グランディール王国より正式な協力要請がいっていると聞いています。にも関わらず、たった今、協力を断られた訳ですから、事実を書面に残す必要があります」
そう言うと、しぶしぶ書面をつくってくれてた。
「アリー ちょっと厳しいくない?」
ジューロが言うと
ビーシャ様が、
「このくらい必要よ、勇者クロックは、私を騙したし、王家は私を拒否したのだから、信用できないわ」
「え、クロックが騙したって、どういう事なの?」
クラリス王女が聞いてきた。もしかしてクロックとビーシャ様の過去を知らないのか、
「え、もしかして、知らないのですか?」
ビーシャ様が言った。
するとクロックが顔面蒼白で、
「わ~、知らない方がいいこともあるよ」
すると侍従たちも、
「クロック様のおっしゃる通りです」
しかし、ビーシャ様が煽ってしまう。
「え〜、知らないのはクラリス王女だけか〜」
すると、クラリス王女は、真っ赤な顔をして、
「私だけ知らないなんて、何を隠しているの話しなさい!」
「クロックが話さないなら、私が話しましょうか?」
さらに煽るビーシャ様
「待ってくれ、それはもうしばらく」
これは、たいへんなことになった。
これ以上は面倒なので、申しあげた。
「ビーシャ様、そろそろお暇しましょうか」
「そうですわね、オホホホ!」
まさか、クロックは、ビーシャ様と恋仲だったことを隠しているとは、
「でも、アリー この後どうするの?」
「ヒュドラを売ったお金で、人を雇い、孤児院をみさせましょう」
「なるほど、それの邪魔をされたくなかったのね」
人手不足なところを お金で人手を奪う訳だから、どんなやからが妨害してくるかもしれない。その相手が有力貴族だったりすれば国王様に泣きつく可能性が高いからだ。
王宮を出ると、銀の盾の皆さんが待っていてくれた。
「アリーさん!」
「あれ、皆さん待っていてくれたのですか?」
「はい、護衛の契約期間は、まだあと3日も残っていますので」
私は思いついた。
「皆さんを1年くらい雇えませんか?」
「え、それは願ってもないことですが、どうしたのですか?」
私は孤児院のことで国王様に協力をもらえなかった事を話した。
「ですから、あなたたちが孤児院をみてくださると助かります」
「わかりました。ちょっと仲間で相談させてください」
しばらく待つと
「お受けいたします」
「ありがとうございます」
「いえ、たった1人の剣士はジューロさんに弟子入りが決まりましたし、B級の魔法使い1人と、防御役8人で、これからどうしたのものかと思っていたところです」
さて、人手は集まった。後はライコックさんをもう一度説得だ。
「皆さんが手伝ってくださるというのは、とてもありがたいお話です。しかし、ここに来た子供たちは、皆、健康体だった訳ではありません。大怪我をしている子もいました。それをあなた方では治せないでしょう」
私はここが勝負と見込んで、今回は踏み込んだ。
「その大怪我をする子供や親を亡くす子供を増やさないために、あなたの力が必要なのです」
それでも首を縦にふらないライコック
子供たちが話しを聞いて集まって来てしまった。皆不安そうな顔をしている。これは駄目かな? そう思った時だった。
「先生、行ってください!」
「僕たちは、大丈夫です。それより、僕たちみたいな子供をこれ以上増やさないでください」
「お前たち…」
迷って、苦悶の表情が手にとるようにわかる。自問自答を繰り返しているのだろう。
何も言えないでいる。
その時だ、人影が横切った。
「よう、久しぶりだな!」
「兄さん!」
「話しは聞かせてもらった。ここの事は俺に任せろ」
ライコックさんは何も言えずに泣きながら頷いた。何度も、
「ところでレイコックさん、ここへ来たのは偶然ですか?」
「いや、クラリス様からの依頼です。最近、王宮から出してもらえなかったのに、どういう風の吹き回しかわかりませんが」
あの後、何があったのか知らないが、大きく心変わりしたようだ。
まあ、何はともあれ、S級ヒーラーを仲間にできた、いよいよだ。
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