第12話  仕事の報酬

思わぬ形で足止めされることになった。

「あの〜私、魔力値普通ですけど、無理なのでは?」

「その辺りはきちんと考慮して、アリー様には、賢者としての、ペーパー試験を受けてもらいます。主に古代語についてです」


そう言って参考になる本を見せてくれた。


ビーシャ様が

「何これ、こんなの読める人いるの?」

「王立大学の教授くらいなら読める方がいるそうです」

私は、難しそうな顔をしながら、心でガッツポーズをした。このくらいなら余裕だ。


「ジューロ様には、Sランク冒険者と、剣術の模擬試合をやっていただきます」


奥の間に通されて、試験が始まった。

こ、これは、さっきの参考書とレベルが違い、悪意さえ感じる。さっきのは、鳥や、花、魚や動物などの、古代語の名詞が並べらへているだけだが、今度のは文章だ。


何となくは分かるが、ここは間違う訳にはいかない。いつもの手だ。


「開け私の書庫、古代語の棚、古代語の訳し方」

あった。


わたしは、少しづつ訳していたが、ある事に気づいた。この文章読んだ記憶がある。う〜ん、そうだ "世界の始まりの伝説" だ。


こうなれば後は簡単。

「開け私の書庫、古代語の棚、世界の始まりの伝説」

あった。

こうして無事に終えた。


「終わりました」

「えっ、もう?」

「はい」

「凄いですね、たった30分で、信じられません。試験時間は3時間をとってあったのに」

「すみません、解答は無くて、この後、試験時間が終わった頃に、大学教授が来て、採点してくださることになっています。どうかしばらくお待ちください」

解答用意してない試験て、初めてだ。


そうだ、ジューロの方でも見に行くかな、そう思って見に行った。


ビーシャ様が退屈そうに見ていた。

「どうですかジューロは?」


「どうもこうもないわよ、勝負は一瞬でジューロの勝ち、あとは見ていた他の冒険者が、稽古を付けてくれって殺到よ!」


やはりジューロは強い、魔王四天王の攻撃さえしのいだのだから、


「それよりアリーも早かったわね!」

「まあ、運がよかったです」


しばらく稽古は続き、ようやく終わった。

「ご苦労様!さすがに疲れたでしょ」

私が声をかけると

「いやー、それがまったく疲れないんだ」


これは変だ、2時間近く剣を振り続けて、疲れない人間なんていない。

もしや、私とビーシャ様は顔を見合わせた。

「ねえアリー、これってカルデスの心臓のせいじゃない?」

「はい、恐らく」

「凄いわね、クロックを超えてるかも」


そう話していると、冒険者組合の長が迎えにきた。

「私は組合長のドボルと申します。皆さん、こちらへどうぞ」

通された応接室には、例の教授とおぼしき人が控えていた。


「まずは、おめでとうございます。お二人とも満点で合格です」

「ありがとうございます」

私とジューロは同時に頭を下げた。


すると、すぐに、


「私は王立大学の教授でムスラーノと申します」

「アリー様、あの文章をどうやって解読なさったのですか?」


「いえ、普通に一つずつ解読してたら、世界の始まりの伝説の一部だと気づいてしまったのです」


「それは素晴らしい! 私は長年あの文章を解読していたのですが、どうしても意味が通らないところがありまして、あなたのおかげでスッキリしました。ありがとうございます!」


「もし、機会がありましたら、一度お寄りください」

そう言って去って行った。


「彼は、よく自重しましたね、本当は大学教授としてあなたを欲しかったようですが、事情を話したら、あきらめてくれたようです」

「ハハハ」

苦笑いをした。


「ところで、ダンジョンに行く前にお願いがあるのですが」

「はい、私たちにできることがあれば」

ビーシャ様はずっと待っていたので、退屈だったのだろう、やや乗り気だ。


「実は、あちらに見えるクレーネ山にヒュドラが住み着いてしまいまして、退治に行ってもらいたいのです」

「え、そんなの勇者の仕事じゃない!」

ビーシャ様が文句を言った。


すると、申し訳なさそうに

「勇者クロック様には、ちょっと事情がありまして」

「ヒュドラの習性と関係がありますか?」

私がそう言うと、

「さすがアリー様には隠せませんな」

「高所恐怖症ですね」

否定しないところをみると図星だろう。

ヒュドラは断崖絶壁を好んで巣をつくるのだ。


「これは面白いことを聞いたわ」

ビーシャ様が ”にゃっと”と怖い笑みを浮かべた。


「しかし、ヒュドラが相手となると、簡単ではありませんね、今、私どもがやるべき事より優先すべきことではありませんが」

私が冷静に話すと


「ではどうでしょう。もしやってくださるのなら、最高のヒーラーをご紹介いたしましょう」

「それはつまり、Sランクのヒーラーということですよね」

「はい、その通りてございます」


これは魅力ある提案だ。Sランクのヒーラーなど、この国に5人といない。これまでは、Aランク程度を考えていたが、Sランクが条件とは厳しいと思っていた。


「アリー、これは受けるしかないようね」

「はい、そのようです」

私達は、ヒュドラ退治の準備を始めることにした。


まず、冒険者組合の受付嬢ルイルイに聞いてみた。

「ところで、クレーネ山て、どんなところなの?」


「はい、ビーシャ様、ご存じかと思いますが、わが国は観光都市で、その目玉となるものが、2つあります」


「一つは、古代遺跡がいくつもあり、ダンジョンもその一つです」


「もう一つは、温泉です。クレーネ山には、国内最高といわれる薬湯の源泉があり、いくつも温泉宿がありました」


ありました。過去形だ。つまり今はないということだ。

「要するに、この国の復興にどうしても必要なのね」

「はい、ビーシャ様、まあ、それだけでなく、ふもとの村が時々襲われているのも事実で、何とかしなければならないことも、確かです」


私たちは、組合を後にして、装備の補充にかかった。

「ビーシャ様、何か欲しい物がありますか?」

「ええ、私は食料さえあれば、この "虹の杖" だけで大丈夫」

「それより、アリーは戦闘能力ないんだから、最高の防護服を買ったら?」

「はい、そのつもりです」


「ジューロは何かないの?」

「いろいろ欲しかったけど、何だかいらない気かする。模擬試合の時の防具とか、動くのに邪魔でしかなかったんだよね」


私たちは、今日の宿を決めて、買い物に出かけることにした。

「私は、防護服を買いに行きます。お二人はどうしますか?」


「私は、なじみの酒場に顔を出して来るわ!」


「じゃあ俺は、テインのお見上げ探しにいってくる」


こうして別行動だったが、夜早目に宿へ戻った。

明日はいよいよ出発だ。


朝、宿の前に10人ほどの冒険者が私を待っていた。

「アリーさんおはようございます」

「みなさんご苦労様」

「ちょっとアリー、この人達は何?」

「何って、私の護衛です。まあ、防護服代わりの」


「え~、こちらは、冒険者パーティー ”銀の盾” の方々です」

「よろしくお願いします」

実は昨日、防護服を買いに行ったのだが、最高の物を着てみたら、重くて動けなくなってしまい、考えたのだ。私の身を守ってくれればいいのだから、人でもいいのではと、


「ビーシャさん、ジューロさん、よろしくお願いします。私は銀の盾のリーダーをやっている。テディスと申します。お二人と仕事できて、光栄です」

「この方たちは、その名の通り、銀色の盾を持っていて、10人中8人が防御役、攻撃役の剣士が一人、魔法使いが一人と極端な構成になっているの」


「な、なるほど、考えたわね」

「ええ、予算は十分あるので、これが最も有効的かと思いまして」

「でも、ガタイのいい男が8人て、ちょっと暑苦しわね」

「女性もいますから」

そう言うと、女剣士が前にでてきた。


「ジューロさん、カトリーヌと申します。昨日は素晴らしかったです。ぜひ、私を弟子にしてください」

どうやら、昨日の模擬試合を見ていたようだ。


「よかったじゃない、ジューロ、こんなに綺麗な方に言われるなんて」

「う~ん、アリー、どうしたらいい?」

なんで私に聞く?

「だって、一応、テインの次に美人だから」

意味わからん。


「こんなに美人なのに、ジューロの基準てどうなっているの?」

私は、ビーシャ様に耳打ちして、ジューロの好みを話した。

かなり引いていたが、納得してくれたようだ。


まあ、ジューロの好みじゃないから、手を出す心配のないので、提案した。

「今回の仕事で活躍してくれたら、考えてもいいんじゃない?」

「そうだな、そうしよう」


こうして、この件は保留とし、出発となった。

馬車での移動中、テディスさんにいろいろ教えてもらった。

「今、冒険者の仕事はどうせすか?

「はい、魔物狩りの仕事が多いですね」

「なら、お忙しかったのでは?」

「いや、お恥ずかしながら、攻撃力が少なくて強い魔物は倒せないのです」


「実は、魔王が来た時に、冒険者も立ち向かったのですが、ことごとく返り討ちにあいまして、防御しか役に立たないものと、あまり強くない女、子供だけ見逃してもらったのです」


「つまり、攻撃役のレベルアップが必須なのですね」

「はい、それがわかっているから、カトリーヌは必死でレベルを上げようとしています」

ああ、美人で性格もまじめか、いい人材だ。


そうこうしているうちに、ようやく麓の村へ着いた。

「ビーシャ様、ちょっと手分けして、情報を集めましょうか」

「ええ、そうしましょう」


ぞろぞろ!

「みんなアリーについてくのね、やっぱり暑苦しいわ!」


私は村長に会いにいった。

彼はびっくりして、

「もう、見捨てられたと諦めておりました」

かなり歓迎された。


「では、ヒュドラについて、いろいろ知りたいのですが」

「はい、まず、大きさは、高さ20〜25メートル、頭から尻尾までは、50メートルほどあります」

かなり大きい。


「体か粘液で覆われており、雷撃系や、炎系の攻撃は効きません。また、打撃系も滑って、クリティカルヒットしにくいです」


「つまり、剣が一番有効ということですね」

「はい」

「また、毒をはくので、これは絶対さけてください。もちろん体がでかいので、力は強いです」


「それと、頭がいくつもあり、一つ落としても、すぐ再生します」

「そこで、再生できないように、傷口を焼かないといけません」


「ありがとうございます。それだけ情報をいただければ、何とかなりそうです」

そう言って、村長宅を後にした。


集合場所に戻ってみると、ビーシャ様とジューロはもう来ていた。

「アリー、やばいわよ、私の攻撃、ウインドカッターくらいしか、役に立たないみたい」


「そのようですね、ここはジューロに頑張ってもらうしかないです」
























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