第7話 第一王妃がやってくる
帰還兵の出迎えは、1週間ほど続き一段落した。大仕事だったが他にはもう一つ大仕事がある。
窓を開けると、今日も爽やかな風がまいこみ、目を覚ましてくれる。すると、首を長くして待っていたものが来た。伝書鳩だ。
私がアメーノ様より、こっそりと情報機関をつくりなさい、そう言われてつくった組織、"猫の目"の、トーマスからだ。普段は商人として、あちこちを回っている。もちろん予算は、アメーノ様よりいただいている。
4月28日にいつもの食堂で、15時とある。
エイビス様の誕生日は5月1日だ。
「やれやれ、ギリギリだ」
私は胸をなでおろした。
翌日、町中の例の食堂に出向き、トーマスと会った。
「アリー様、これが皆で調査した結果です」
そう言って書類の束を渡した。
「わ〜、かなりありますね、よく頑張ってくれました」
「それはもう、応募者は50人以上いましたからね、猫の目総出で調べましたよ」
そう、エイビス様の婚約者候補の調査だ。
「誰か目についた方は、いましたか?」
「いや〜、甲乙つけがたいですね」
「家柄が良く、美しく、能力も高い方に、◎の印を付けてあるのですが、それだけでも20名からいます」
「私なら選べませんね」
「ありがとうトーマス、しばらくはゆっくりしてね」
そう言って食堂を後にした。
5月1日には、皆やってくる、それまでに候補者を絞りこみ、ラメーノ様に伝えなければならない。なんともやるせない仕事だ。
皆、エイビス様の誕生日前日にやってくるのだが、その前に、第一王妃ラメーノ様がやってくると手紙が来た。残念ながら実母は来られないそうだ。
いろいろな方をお出迎えしたが、これまでとはレベルか違う。
何しろ、ラメーノ様は王国の宝だ、ある意味平凡な能力の王よりも、大事にされている。その方が来るのだ。
早速エイビス様と協議に入った。
まずエイビス様が
「ラメーノ様が明日来られるにあたって打ち合わせをしよう、アリー、ラメーノの様の陣容を教えてくれ」
「はい、お答えします。まず護衛の方が約150名、お付のメイドが10名、執事が5名となっております」
かなりの陣容だ。
「護衛は十分だと思いますが、領地に入ってから問題が起これば責任を問われることになるので、こちらからも護衛の出迎え兵を出すのがよろしいかと」
ファントム様が提案された。
「そうだな、ラベンダーにお願いしよう」
「それと、エリー、王妃様の好みの料理はわかるかな」
「はい、もちろんです。料理長に伝えてあります」
「テインのことはどうしようか?」
「あの方は、何でもお見通しです。隠さず伝えるしかないでしょう」
ここで、ハッとして顔を見合わせた。王妃様が早めにいらっしゃるには、このあたりの事情をすでご存じで、確かめにくるのではないかなと、
「もしかして、テインのことばかりでなく、レンム様の事も察しているかな?」
エイビス様が問われた。
「はい、可能性は高いかと」
良く考えたらそうだ、私に秘密の情報機関をつくるよう命じたラメーノ様、もっと大規模な同様の組織を持っていて当然だ。その組織を使えば、容易なことだろう。
一気にエイビス様と私に緊張が走った。
「ラメーノ様がどう考えているかわからないが、正直に話してみようと思う」
腹をくくったようだ。
場合によってはお咎めを受ける可能性もあるが、そうなったら、全力でお助けするだけた。
こうして、いよいよラメーノ様がやって来る。私とファントム様は外で、エイビス様他は玄関の中でお待ちした。
来た。私は馬車に駆け寄った。
「ラメーノ様、お待ちしておりました」
「久しぶりね、アリー、メルフィの件では迷惑をかけたわ」
とんでもございません、普通ならそう恐縮するところだが、
「あれほどの窮地に立ったことはございません」
そう返すと、笑いながら、
「あなたを窮地に追い込むなんて、メルフィはドラゴンなみね」
私は思わず笑ってしまった。
続いてファントム様が
「久しぶりですドラゴンの義母様、お美しさは変わりませな」
冗談交じりの挨拶。すると、
「ありがとう、ドラゴンは長寿だから、変わらないのかしら!」
笑顔で冗談を返した。しかし、驚くほど変わらないのは本当。さすが第一王妃だ。
玄関の前に着き、
「王妃、ラメーノ様がお着きになられました」
そう言って扉を開くと、演奏が始まり、拍手が起こった。
エイビス様か真っ先に近寄り、挨拶をした。
「遠路はるばる、ようこそおいでくださいました」
「エイビス、元気そうで何よりだわ」
そう言ってハグをした。
メルフィが柱の影に隠れているのに気づいて、声をかけた。
「メルフィ、いらっしやい」
しぶしぶ、出てくると、
「お義母さま、ごめんなさい」
「もう、いいわ、あなたが元気でいてくれたら」
そう言ってハグした。
それから簡単に皆に挨拶を交わし、部屋で長旅の疲れを癒すことになったが、私に一言あった。
「アリー、例のリストを 後で持ってきてくれるかしら、早く見たいわ!」
「はい、できておりますので、直ぐにお持ちいたします」
ここまでは、波乱なく予定通りだ。ここまでは…
早速、最終的にわたしが絞った候補者のリストと簡単な説明書をお持ちした。
その場で直ぐに目を通され、不満そうに言った。
「あなたが入っていないじゃない!」
「えっ、」
以外な問いかけに、頭はパニックで口をパクパクさせてしまった。
「いつも冷静なあなたが、そんなに焦るなんて、おもしろ、いや、なんで自分を入れなかったの?」
今おもしろいって言いかけたよね、まったくこの方は、
私は、やっと声を絞り出し
「私なんかより、美人はたくさんいますし、魔力値だってみな高いです。それに身分が違いすぎます」
「あなたって記憶力は凄いけど、馬鹿ね。あなたは有能よ、エイビスだって頼りにしているでしょうに」
確かに頼られているのはわかるが、
「でも、エイビス様のにも好みとういものが」
「これだから… エイビスはあなたの事が大好きよ」
「わ、わかりました」
私は仕事が終わった後、部屋で考えこんだ。
仮にエイビス様がラメーノ様の言った通りだとしても、やはり難しい。
何しろ、候補者には、隣国の王女や、公爵の娘で、しかも評判の高い方が揃っているのだ。私なんかが入ったら彼らの反発は必至だ。
「あ〜、どうしたらいいんだ」
悩んでいると、コンコンとノックされた。
「はい」
こんな時間に誰だろう、
「私よ!」
まさかの、ラメーノ様だった。
「ラメーノ様、こんなむさ苦しいところに」
「まあ、いいでしょう?」
そう言って入ってきた。
「あなたのことだから、悩んでいるのでしょう!」
「はい、特に身分が違い過ぎる点が」
「そうね、でも私も後押しするから、頑張ってみたら?」
「ラメーノ様、どうして私をいろいろ応援してくださるのですか?」
「そうね、やっぱり神様を信じているからかしら」
「それはどういうことで」
「あなたを召喚したのは、私なのは知っているでしょう?」
「はい」
「魔力値が低く、周りの反対が強くて、一度は孤児院に送りを了承したけど…」
「メイド試験でナンバーズに選出された時、やっぱり何かあるって思ったのよ」
「それに、巫女が神託を疑うのは、よく考えたら変でしょ!」
そう言って、部屋を見回し固まった。
「アリー、こ、この笛は何」
「あ、それは私が召喚された時に懐にもっていたものです。服はもう小さいので捨てましたが」
ラメーノ様の目の色が変わった。
「そう、そういう事だったの、そうなのね」
ラメーノ様は大声で叫んで笑いだした。
「アハハハ、何で気づかなかかったのかしら、でも仕方ないわ、あなた川で見つかって、王宮に連れてこられた時は着替えていたから」
「アリー、もうわかったからいいわ、後は私に任せなさい」
そう言ってラメーノ様は自室に戻っていった。
何がわかったのだろう、確か笛を見た途端変わった。そこで調べてみた。
「開け、私の書庫、楽器の棚、笛に関する書籍」
いろいろ調べたが、何も出てこない。私の笛と同じものが出てこないのだ。
もちろん私の記憶にはあるが、この世界の記録にないのだ。なら、何でラメーノ様はこの笛を知ってる?
私は気づいてしまった。この笛が何か知っているのは、同郷者のみだ。
ラメーノの様の大声を聞きつけて、テインとビーシャ様がやって来た。
テインが心配そうに
「大丈夫だった?」
「う、うん何でもないわ!」
「その顔は何でも無くないわね」
ビーシャ様は鋭い。
3人でベッドの上に座って話すことにした。
私は話せることを話した。
「ラメーノ様が何か企んでいるようなのだけど、何かはわからないわ」
「誰か何か知ってる?」
「まあ、この世界でただ一人、本物の巫女よね」
テインが驚いて、
「ラメーノ様って本物の巫女なの」
「ええ、間違いないわ」
「魔族は知らなかったの?」
「迷信か何かの類いだと思ってた」
「ところで、明日には婚約希望者が殺到するのでしょ、絞りこめたの?」
「はい、何とか」
「私以外にどんな方がいるの」
「えっ、アリー、ビーシャ様は候補者なの」
「ええ、そうよ」
「そんなのズルい、男運がない仲間かと思ってた」
ああ、他人の幸せが続いたので、そういう見方もできるかな、
「わたしも幸せになりた〜い」
「ジューロがいるじゃない」
「う〜ん、問題外だけと、お菓子を持ってきてくれることだけは、評価できるわ」
「ハハハ」
少し笑いが起きた。
「あ、でも剣の腕は相当よ、この前のラベンダー様との模擬戦、あの重くて早い一撃を5分も耐えたそうよ」
私が後でファントム様から聞いた話しだ。
「それはそんなに凄いの」
テインが聞いてきた。
「ええ、ラベンダー様はドラゴンバスターですから」
すると、ビーシャ様が
「なら、何か手柄を立てれば出世するかもね」
「それより、アリー、あなたは、いいの?」
「えっ、私の相手ですか?」
「だってあなたとエイビス様って、恋人同士みたいにいつもべったりじゃない」
「ちょっとやけるけど、あなたなら許せるわ」
ひえ〜 周りからはそんな風に見えてたのか、自分のことはわからないものだ。
私は苦笑いをして、遠くを見ながら
「まあ、無いわ!」
そういうと、ビーシャ様が本当のことを言いなさいと言って迫ってきたが、急に諦めた。
「どうしました、ビーシャ様」
「あたったのよ」
「何が?」
私の胸をじっと見て言った。
「どうしたらそんなに大きくなるの」
「小さくたって、エイビス様は嫌わないわよ」
そう、テインが言ったのは。まさに火に油だ。
「キー、私だって少しはあるわよ、あなた達が大きすぎるの」
こうして夜もふけていった。
明日はどんな結果になるだろう、とにかくエイビス様の幸せだけを考えることにして、眠りについた。
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