第4話 妹襲来・・・

唐突なプロポーズに、みな唖然としたが、ファントム様がすばやくジューロの頭をたたいた。

「お前は何を考えているんだ、この娘の角を見てわからないのか、魔族だぞ」

「それが何か? 彼女は最高です」


ファントム様はため息をつき話した。

「前から聞こうと思っていたが、お前が選ぶ女性の基準はなんだ」

「えっ、胸の大きさに決まっているじゃないですか、しかも童顔なんて最高です」


やはり、そうだったか、女好きと思っていたが、胸は控えめだけと美しい、ビーシャ様には目もくれない、みなドン引きだ、特にテインの顔はひきつっている。


「アリーさん、この人は何ですか?」

「ただのゴミです、無視してください」

「わかりました」

「そんな~ お友達からでもいいから~」

ゾロゾロゾロ、皆無視をして解散した。


こうして怒涛の一日は終わった。さすがに明日は平凡であるといいな。


翌朝、エイビス様は普通にマラソンへ出かけて帰ってきた。

今日は何もなかったようだ。私がタオルで汗を拭いてあげていると、手紙が届いた。

一通はエイビス様に、もう一通は私宛に届いた。


エイビス様はその場で読んで、複雑な表情をなさった。

「エイビス様、どうかなさったのですか?」

「メルフィーが来る」

「えっ」


これは一大事だ。彼女は第四王妃の娘で、第三王妃の息子であるエイビス様とは、腹違いの兄妹になる。


何が問題かというと、王様の誕生日の件依頼、エイビス様にゾッコンで、結婚することを疑わないのだ。


私は、自分宛の手紙が、アメーノ様からの手紙と気づき、メルフィー様の件と関わりがあるかもと考えすぐに読んだ。


{アリーごめんなさい、メルフィーを止められませんでした。例の件がバレました。

エイビスとの婚姻を許可をしなければ、”死んでやる”と叫ばれ、仕方なく、王が、アリーに一任してあるので、彼女に許可をもらいなさいと言ってしまいました}


エイビス様の手紙も、ほぼ同様のことが書いてあった。二人とも顔を引きつらせた。


「アリー、例の件て、16歳になるまでに、婚約者を選定する風習の件だよね」

「はい、そのことでしょう」

そう、エイビス様は15歳で、あと1ヶ月ほどで16歳になる。知ってしまったメルフィー様が黙っているはずもない。


「正直言って、メルフィーは可愛い、だけど妹としか思えないよ」

「しかし、エイビス様のお妃になるのが夢と公言してましたからね」

ましてや私にもなついていて、あの愛くるしい瞳でお願いされたら、だめとは言えない。


こうなったら

「エイビス様、私はしばらくお暇をさせていただきます」

「あ、ああ、それがいいだろう」

私はすぐに準備した。

「それでは、言ってまいります」


そう言って玄関の扉を開けると、メルフィー様が立っていた。

「あら、アリーお出かけ? でもちょっと待ってね」


遅かった。


「お兄様、お久ぶりです。あなたのメルフィーがやってまいりました」

そう言って、エイビス様に抱き着いた。


私は茫然と立ち尽くし、真っ青になって思った。クラーケンが来た時より、ピンチかも


玄関の騒ぎを聞きつけ、ビーシャ様が起きて来た。

「あら、可愛いお客様ね、どなたかしら」

ビーシャ様は会ったことがあるのを忘れているようだ。


「初めまして、第四王女のメルフィーです。今日はお兄様と結婚しにきました」

ストレートに言った。まだ少し幼いが、女の感で、ビーシャ様を恋敵とみなしたようだ。


対してビーシャ様も気づいたようで、反撃した。

「結婚って、合意があって決まるものなのよ、エイビス様は了解したの?」

「それはまだですが、これからします」

二人のバトルが始まった。


二人の間に火花が見えるようだ。


まずい、婚約者選定の件が私に一任されていることを、二人とも知っている。その話しを振られるのは時間の問題だ。


こればかりは、私の記憶の書庫でも、どうにもならない。まさに絶対絶命、その時だ。テインが起きてきた。


「おはようございます。ご飯まだですか?」

それを見たメルフィー様が固まった。なんていいタイミングだ。


「なんで魔族がいるの?」

当然の反応だ、しめしめ話題が変わった。

するとエイビス様も私と同じく、しめしめと思ったのだろう、うまく話しを持っていってくれた。


「彼女はここで、僕の補佐をやってもらうことに決まったのだよ」

「正気ですかお兄様、魔族ですよ」

「ああ、いろいろ検討した結果だ」


「詳しい話しは後にして、先ずは朝食にいたしましょう」

「メルフィー様もどうぞ、朝にご到着されるなんて、従者の方々に無理をさせたのではないですか?」

「へへへ!」


王都からこのまで、3日はかかる。手紙とほぼ同時に着くなんて、無茶したとしか考えられない。


「だって早くお兄様に会いたくて」


私はハッとして外に出た。やはり馭者も、護衛も、お付のメイドたちも、ぐったりしている。

「大丈夫ですか?もしかして夜通し走りました?」

「はい〜」

「奥にご案内します。ゆっくり休んでください」


わたしは鎮痛な眼差しで、彼らを労うと同時に、顔が青くなった。馬車が10台以上並んでいる。そのうちの多くが荷馬車で、恐らく嫁入り道具だ。


朝食を終えると、メルフィー様は寝てしまった。お疲れになったのだろう。今のうちに対策を練らなければ、皆で話しあった。


エイビス様がおよその流れを話した。


するとまず、

ビーシャ様が話された。

「アリー、候補は5人て言ってたけど、何人決まってるの」

「はい、ビーシャ様だけです」

ビーシャ様が立ち上がりガッツポーズをした。


エイビス様には話していなかったが、何も言わず顔を赤くしているので、了解と考えてよいのだろう。話す手間が省けた。


続けて

「なら、メルフィー様も婚約者でいいんじゃない? 義理の妹と結婚なんて、よくある話しだし」


「それができれば苦労はしないよ、長年、妹として可愛いがってきたから、妹としか見れないよ」


「アリー、いつもの知恵で何とかならいか?」

「こればかりは…」

「他に素敵な方を紹介するとか駄目なの?」

テインが提案した。


「それは難しいでしょう」

わたしは、馴れ初めと、地位や名声、そして性格からして、エイビス様以上の方が見当たらないことを説明した。


「えー、そんなのどうにもならないわ」

テインがさじを投げた。

皆、同意見だ。私もだが、ここでちょっと気づいたことがある。逆転の発想を


「皆さん、少し思い当たる節があります。私がメルフィー様にお話してみます」


「本当に?」

皆が疑念の瞳で、注視した。

「どんな方法?」

「それはまだ秘密です。明かせば失敗に終わるかもしれません」


皆を見渡して、反論がないことを確認すると

「わかったよアリー、君の言う通りにしよう」

エイビス様は了解してくださった。


その後、ようやくメルフィー様が起きられたのは、お昼すぎだった。


私が早速部屋に訪れると、真っ先に迫ってきた。

「アリー、私を婚約者候補に入れてくれるわよねー、お兄様は私を愛してくれているわよねー」


「メルフィー様、落ち着いて聞いてください。妹として深く愛されているのと、妻になる女性として愛されることは違うのです」


「えー、そんなひどい」

今にも泣きそうだ。

「ただし、私の言う通りにしていれば、願いは叶います」

「本当に?」


「はい、ただし、絶対に私の言う通りにしていただきます。それと、このことを誰にも話してはいけません」


メルフィーは少し考えた後

「分かったわ、約束する!」

「どうすればいいの?」


「今から、どうすべきか私が話します。それを書き写してください。

「分かったわ!」


「開け私の書庫、第二王妃ミレイ様が王様を落とした時の話し」


そう、つまり私はメルフィー様を諦めさせることより、エイビス様の気持ちを変える方を考えたのだ。だから、エイビス様にはナイショだ。


あった、ミレイ様と王様は義理の兄妹にあたり、どうやって結婚にこぎつけたか、ミレイ様より聞かされたことがあったのだ。


私が話すことを書き写すメルフィー様の顔がだんだん赤くなっていった。


「本当にこんなことをするの?」

「はい、誰かに願うばかりの女性なんて、エイビス様にふさわしくはありません。そうは思いませんか?」


「確かに、そう思うわ」

「場合によっては数年かかる場合もあります。それでもやり遂げるのが、真の愛です」

立派なことを言って、自分の場合、頑張っても無理だけどね、と、ツッコミをいれた。


しかし、メルフィー様は目を輝かせている。

「わかったわ、必ずやりとげてみせる」

うーん、騙しているようで心が痛む。


具体的にどんなことかと云えば、まあ淑女としての振る舞いや、いくらかの色気を身に付けていくことだ。天真爛漫な彼女には、しばらく時間がかかるだろう。


こうして説得に成功したことをエイビス様に告げにいった。

執務のドアをノックして入ると、異様な光景が目に入った。


猛然と書類の山に目を通し、次々に片付けていくテインの姿だった。

「エイビス様、メルフィー様の説得に成功しました」

「えっ本当に?凄いな、でも良かったよ」


忙しそうなので一旦退出して、再度、お茶とお菓子をお持ちした。


するとテインが、立ち上がって、

「ここと、ここの数字が違っています。それと、この申請には疑問があります。小さな橋の建設にこれほど費用がかかるのはおかしいです。調査をお願いします」

「ああ、わかった」


これは… 予想以上に使える

「二人ともお茶が入りました。少し休んでください」

テインは、なに~という顔を一瞬したが、お菓子を見た途端かわった。


「ありがとう、アリー」

「頑張っているようね」

「うん、ムシャ、ムシャ」

「正直いって、これほどとは思わなかったよ、アリーは目利きだな」

こうしてお菓子をほおばるテインは普通の女の子だ、なんか可愛らしい。


これを密かに見ていたジューロが、毎日のようにお菓子を差し入れることになったのは、後で聞いた話しだ。














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