第2話 失恋から・・・

 泣き出したビーシャ様、理由は何となく想像がついたが、私の予想が正しければ、慰めることはできないだろう。そこで、あえて率直に話しかけみた。


「失恋ですか?」

「えっ」

驚いたように、私を見た。

「何も言っていないのに、なんでわかるの?・・・・」

それでも話すことを躊躇しているようなので、言ってみた。


「私のことを覚えていませんか、召喚されたあと、才能がなくて孤児院におくられた私のことを 今はメイドをしています」


私をよく見て思い出したようだ。

「アリーだったかしら?」

「孤児院では苦労しました。こんな私にも話すことができませんか?」


少しと戸惑っているようだ、何しろ、自分は大事に扱われ贅沢三昧だったのだから、それに比べ孤児院はかなり厳しく、自分が恵まれていたことは明確だ。


 そして私は失恋の予想について話した。

「なぜ知ったかというと、私の感なのですが、勇者一行の号外に描かれていたものは、すべてビーシャ様とクロック様が寄り添っているように見えましたから」


「わーん!」

さらに大きく泣くが、話始めた。

「あいつったら、魔王を倒したら結婚しようって言っていたのに」


「やはり、そういう仲だったのですね」

「わかってはいたのよ、顔立ちも良くて、強くて、あちこちの国に目をつけられているのは、私は側室でもいいと思っていたの、わーん・・」


「なのに、あいつ、王女が三年は側室をとらないっでくれって、だから三年待ってくれって言いやがったの、」

「それで何と返事を?」

「もちろん、”待てるか~”って言って別れたわよ」


 そして、それからの事を話してくださった。

「しばらくは、居酒屋でヤケ酒の日々を送っていたのだけど、心配して他の仲間が慰めてくれたはわ」

「でも、みんな次にやるべきことがあって、去って行ったの」

「そのようですね」


勇者一行の、その後の行方はしっている。

勇者クロックはミケーネ王国の王女と結婚、次の王となることが決まっている。


前衛のダイは、もともとドアーフの国の王子で、帰って即日、王になった。


最高の回復魔法を扱えるヴェネは、クシャーナ王国魔法大学の教授で、この度の功績をもって、弱冠26歳の史上最年少学長に就任した。

そういえば、ビーシャ様は?


「ビーシャ様は、グランディール王国の出身ですから、お呼びがあったのではないですか?」


「あったわよ、クロックと結婚する予定って言ったら、地位と、お屋敷を用意するから、グランディール王国に戻ってきてくれって」

「そこでクロックに相談したら、この様よ、ハハハ」


笑ったが目は笑っていない。


「そこで、どうしようかと思ったけど、グランディール王国に行けば、とりあえず厚遇してくれるだろうと思って、船に乗ったの」


魔王討伐の時、海は魔王が操る大型魔物がおり、船は危険すぎて、陸続きになっている北の地を迂回するしかなかった。


しかし、魔王が討伐されたことにより、航路が復活しているのだ。となれば、船の方が断然早い。


「朝早く出航して、潮風が気持ちよく、とてもスッキリだったのだけれど、夕方だったかしら、突然大型のクラーケンに襲われちゃってね」


「魔王はもういないのにですか?」

「えー、たぶん命令するものがいなくなって、暴走したみたい」


 その可能性はある、もともとは狂暴な魔物だが、倒せば一獲千金の魔物で、一生遊んで暮らせるほどの賞金が手に入る。


そのため冒険者にとって夢のターゲットであるが、と同時に、最上級Sクラスの冒険者、10人以上の徒党を組んで対峙しなければ、逆にやられてしまう難敵だ。


それがこのところ、魔王軍と対峙していた最前線近くの海にはべっていたため、こちらの方ではまったく見かけなかった。

魔王の死とともに、自由に活動し始めたかも。


「それで、クラーケンは?」

「もちろん、倒したわよ、でも船はぐちゃぐちゃに壊され、乗り組み員や乗客は海に放り出されちゃって、仕方なく救命ボートにできる限りきり救助したの」


「さすがビーシャ様ですね、そのボートには乗らなかったのですか?」

「うん、ギリギリ乗れそうだったけど、暑苦しそうで止めたわ。それでね、飛行魔法でシルクソルトの港を目指すことにしたの」


「えっ!」

ちょっと待って、ミケーネ王国からシルクソルトまで、船で二日近くかかる、距離にして約500キロ離れている。


話から想定すると、少なくても250キロは飛んできたことになる。人類の飛行魔法の連続飛行最高距離は、110キロだ。


「さすがにそれは無理だったのですね。」

「そうなのよ、クラーケンは極大魔法しか効かなくて、しかも、炎系がだめで、雷系も使っっちゃって、魔力を相当消費しちゃったみたい」


わーこの人化け物だ。極大魔法なんて一発撃ったら、S級冒険者でさえ動けないのに、その後飛んできたのか、すごすぎてドン引きだわ。


「それから、飛んでいる途中、色々考えちゃって、魔力も尽きてきて、頑張って魔王を倒したのに、何にもいいことないな、もう疲れた。このまま死んでしまってもいいや、なんて思ったりして」


彼女はシクシク、また泣き始めた。


 私は提案した。

「もしお嫌でなかったら、エイビス様の婚約者になりませんか?」


「えっ?」

「私は、第一王妃、ラメーノ様より、エイビス様の婚約者選定を任されているのです。」

そう言って、ナンバーズの証の指輪を見せた。


普通なら、たかがメイド風情が何を言ってるのだと思ってしまうだろが、ナンバーズは別だ。王様にさえ助言できるほど、知性を備えることが必要とされている。


「あなたナンバーズなの?」

「はい」

少し考えた後、聞いてきた。

「エイビス様って、あのシルバーシックス?」

「はい」


そう、エイビス様は、この国では第五王子、ゴールデンファイブと並んで、シルバーシックスと称され、その為政者としての手腕に、たいへん評判が高いのだ。このシルクソルトが豊かな事も評価されている。


「海岸に倒れていたあなたを見つけて、連れてこられたのもエイビス様です」


ビーシャ様の目が少しだけ輝き出した。

「これは運命かしら」

「でも、エイビス様に見初められなければ駄目でしょう、勇者に捨てられた私なんか」


 やはり勇者とのことで、自信を無くされているのだろう、弱気だ。

「そこはお任せください。あなたは元がいいのです。私が最高の淑女にして、エイビス様の目をくぎ付けにして見せます」


私が自身を持って言うと、びっくりしていたが


「お願いします」

そう言って頭を下げた。


さあ、私の出番だ。

「開け私の書庫、エイビス様の目を引いた女性の記憶」

あった。


「続いて、その女性に共通の髪型、メイク、洋服のタイプ」

それぞれを引き出した


何々、色は赤が好きなようだ、これは、ビーシャ様の髪は赤、この時点で綺麗に結ってあげるだけで好感度アップだ。やはり運命かも


さらに、

「開け私の書庫、メイクアップ全書」

綺麗な肌に合うメイクはあるかな? あった。


ドレスは予想外、地味だけど体のラインがよく出るやつが好みか、なんかエロい。


そしてディナーの時間には、ビーシャ様がいらっしゃられることをメアリーに伝えて、準備にとりかかった。


「ふー、何とか間に合いました。ご覧ください。」

ビーシャ様は鏡の前に立つと思わず叫んだ。

「これが私?」

どうやら気に入ってくれたようだ。あとはエイビス様の反応がどうかだ。

やるだけの事はやった。あとは「神のみぞ知る」だ。


 そして、その時が来た。

自信満々で、任せてくださいなんて言ったが、本当はダメだったらどうしようと思い、心臓がバクバクだ。


"コンコン"「ビーシャ様がおいでになられました」

私が扉を開けると、皆が注目した。

開口一番はビーシャ様だった。


「ビーシャと申します。この度は、危ないところを救っていただき、ありがとうございました。その上、このように丁寧にもてなしてくださった事、重ねてお礼もうし上げます」


本来、ここでエイビス様が何かしらお返事をなさるはずが、何も言わないでぼーっとしている。私は気づいてしまった。これは見とれてる。


「エイビス様、見とれていないで、ご挨拶を」

私が語気を強めていうと、慌てて返事をなさった

「この町の領事をしているエイビスです。助かってよかった。どうぞお掛けになってください」


結果は上々だ。ビーシャ様と目を合わせて、小さくガッツポーズをした。


 それからは終始楽しく晩餐が進んだ。ビーシャ様の冒険譚は楽しく、皆が引き込まれていった。私は嬉しいと同時に寂しさもこみ上げてきた。


「もう間もなく、エイビス様は誰かのものになってしまうのですね」

そう思うと、エイビス様と初めて会った時を思い出してしまった。


あれは、王様の誕生日会で、王子、王女が揃って挨拶された時のことだ、そこは、それぞれがお祝いの口上を述べ、存在感を示す場でもあった。私は召喚されたばかりで、とりあえず列席がゆるされていた。


特に第一王子や、第二王子などは、ここぞとばかり、立派な祝福の言葉を述べていたが、小さな事件が起きた。


あまりの緊張感から、第四王女、末っ子のメルフィー様が泣き出してしまったのだ。無理もない、大勢の有力貴族が列席の中、まだ7歳の女の子だ。こういうこともあるだろう。


誰もが呆然とする中、素早く寄り添ったのがエイビス様だった。


「大丈夫だよ、メルフィー」

それでも泣き止まないので

「僕と少し庭で遊ぼうか」

そう話すと、なきべそをかきながら、

「うん」

そう言ったので、エイビス様は

「お父上、少しの間失礼します」

そう言って出ていかれたのだ、


私はすぐに花を摘んで追いかけた。

そして、何をして遊ぼうか話している二人に声をかけた。


「このお花で、花輪をつくりませんか?」

すると、メルフィーは目を輝かせ、

「うん」

「ありがとう、君は?」

「はい、エイビス王子、私は、アリーと申します。」


これが出会いだった。


その後、作った花輪をプレゼントされた王様は、たいへん喜び、勝手に抜け出したエイビス様とメルフィー様の罪は不問とされた。

思えば、この時から私はエイビス様を・・・


こうして怒涛の一日が終わったが、翌朝、さらに大変なことが起きるとは、








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