地縛霊の少女達と百合ハーレムを築いた私は勝ち組です

三咲旭

ベッドの地縛霊

第1話


 友達付き合いも面倒だし、家族に気を遣うのも面倒。

 だから私は、ずっと一人で考えて行動してきた。


 私にとってこの生き方は、意外とメリットが多い。

 ひとつは、周りの意見に左右されず、気楽にオタ活に没頭できること。

 それともうひとつは、家族や友人に使う時間をオタ活に回せること。


 つまり、私はオタクである。

 女の子をこよなく愛し、女の子同士の友情や恋愛を描いた作品が三度の飯よりも自分の命よりも大切な、重度の百合オタクである。


 高校一年の頃、この趣味を拗らせて幼馴染に本気で告白をして、玉砕どころか縁を切られてしまった。

 それから七年間、友達を作らず家族にもこの趣味を知られないまま大学を卒業。

 

 実家からも地元からも離れて、死ぬまで女の子に埋もれて生きていきたい。

 

 ——そう思っていた、卒業式の翌日。


 就職先が決まらず、だからと言って家にもいられず呑気に都内に来ていた私は、声優さんのイベントの帰りにふらふらと街中を彷徨っていた。


「ねえねえ、そこの可愛いお姉さん、私の店で働いてみな~い?」

「良いですね、ぜひ働いてみたいです」


 突然現れた癖の強いコンビニのオーナーにスカウトされ、ノリで誘いを受け入れた私は、その勢いのまま就職を決める。


 その日に物件を探し契約まで進め、実家に帰り両親にその旨を伝え連帯保証人のサインと判子まで済ませた。


 さて、次は家具だ。

 夜に自室の布団に包まりながら、いかに費用を抑えつつ良い家具が揃えられるかを考え、ネットを見漁る。


 ”必要な家具は大体揃います!単身引っ越しにはここしかない!”

 ”セット平均価格はなんと1万円!※家電の取り扱いはありません。”


「お、ここ良さげじゃーん」


 ベッド、テーブル、ソファ、クローゼット、カーテン、ラグ。

 家電の取り扱いは無いようだけれど、これだけセットで1万円は格安すぎる。


 疑うことを忘れた私は、そのまま購入を決めた。



 ——それから約1か月。


 世間がゴールデンウィークで浮かれる中、私達コンビニ店員はそんな世間の休日にも働かなければならない。


 正社員で雇用された私は土日固定での休日が約束されているため、ゴールデンウィーク中にも関わらず、コンビニ店員らしからぬ休日を過ごせるというわけだ。


 四月末の金曜日。

 たった二日間ではあるが、明日から私にとってのゴールデンウィークが始まる。


 給料日は一週間前だったけれど、入社が三月半ばのため固定給の半分しかもらえず、ゴールデンウィークを贅沢に過ごすためにも使い過ぎず温存していた。


 そして待ってましたと言わんばかりに、仕事帰りに寄ったスーパーで食べたいものをたくさん買い込み、両手に大きな袋を二つ抱えて自宅へと帰る。


「ただいま~」


 私一人なのは分かっている。

 ただ、なんとなく言ってみただけ。


 狭くも無く広くも無い玄関で靴を脱ぎ、一度床に置いていた袋を持ってキッチンへ向かう。


 1Kの家にしては割と広く、玄関と一体化したキッチンのある部屋は、小さめのダイニングテーブルを置いても良さそうなほど。


 シンクの横にある冷蔵庫の前に買い物袋を置き、冷蔵と冷凍の商品をしまう。


 ……買いすぎたかな。


 次の出勤である月曜の朝まで引きこもるため、これでもかというくらい買い込んでしまった。でも、これこそが給料日後の贅沢というやつ。

 そんな背徳感を噛みしめながら、スカスカだった冷蔵庫を埋め尽くした。


 それからご飯を炊き、お風呂を済ませる。

 適当に炒めた肉野菜炒めを皿に盛り、炊き立てのご飯を茶碗によそう。

 脇に缶ビールを挟め、ご飯とおかずを両手に持ち、居室にあるダイニングテーブルまで持って行く。


「さて、ゴールデンウィーク、満喫するぞー!」


 テレビを付け無難なバラエティー番組を流しながら、夕食を食べ始めた。


 一人暮らしって、なんて自由で平和で、落ち着いているんだろう。

 そんなことを噛みしめながら、キンキンに冷えたビールを喉に流し込む。


 夕食を食べ終え、食器を台所に放置しベッドに寝転がった。


 12畳ほどの居室は、初めて一人暮らしをする私にとってはとても広い。

 部屋の半分側の壁際にシングルベッドがあり、クローゼットや衣装ケース、本棚などを近くに置いている。


 もう半分側には、ダイニングテーブルと、その向かい側にはソファとローテーブル。そのどちらに座っても見える位置の窓際にテレビがある。


 床には、ベッド側の半分にホワイトベージュのラグを敷き、12畳の居室を良い具合に寝室と居間で差別化し、より居心地良さを実現できていた。


 カーテンも明るめのベージュで、ラグとの違和感もそこまで感じない。


 ……この家、快適過ぎない?


 狭いアパートで両親と三人で暮らしていた実家とは大違いだ。


 ふとスマホを開き、時間を確認する。

 まだ21時を過ぎた頃だと分かり、起き上がってベッドの上から手を伸ばし本棚から単行本を一冊取ると、うつ伏せに寝転がりながら読み始めた。


「うはぁ、今回の展開やばすぎでしょ」


 展開もやばいし、キャラクターも可愛すぎて堪らん。

 実は想い合っている幼馴染の女の子同士が喧嘩をして、お互いにクラスの女子へ告白する。そのクラスの女子が、実は同じ女子で……。


 百合の三角関係から拗れに拗れまくる、めちゃくちゃなのに毎号興奮が冷め止まない、そんな作品。


 ……百合はなんて尊いんだ。


 読み終え本棚にしまうと、部屋の電気を消して布団に潜る。


 スマホを開き、読んでいた漫画の推しキャラの二次創作イラストを見漁ってから、そのまま眠りについた。



 お酒のせいか暗い時間に目が覚めてしまい、天井をぼーっと眺める。


 ……身体が重い。


 金縛り?

 住んで1か月も経つのに今更?


 見ていた天井から視線だけを動かし、恐る恐る身体の上を確かめる。


 すると、お腹の上に何かがいるのが分かった。

 間違いない。これは幽霊だ。


 顔は髪で隠れているが、じっと私のことを見つめているのが分かる。


 どうやらお腹の上で正座をしているようで、動けそうな気もするが乗っている幽霊の安定感に対する不安で動けそうにない。


 もしも幽霊がバランスを崩して落ちたら、呪われるのではないか。


 どうして幽霊に対してそんなことを思うのかは分からない。

 ただ、明らかにこの幽霊には体重があるし、お腹に触れる足の感触が、バランスを取っているようにも思えてくる。


 すると不意に窓から入って来た車か何かの光で、その幽霊が照らされた。


 そして薄っすらとしか見えていなかったその姿が、目の前に現れる。


 眩しそうに左腕で目を覆いながら身体をのけ反ったその幽霊は、バランスを崩してベッドの脇に倒れ込む。

 私はその隙に身体を起こし、その幽霊に声をかけた。


「……ごめん、君、まじで私のタイプだわ」


 そこにいたのは、小学生くらいの幼い女の子の幽霊だった。

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