第2話ハローウィン
待ちに待ったおばけ祭りの日が来た。
10月31日。その日の夜だけは米軍基地の
軍属住宅地帯、いわゆる家族部隊が一般に解放される。
普段は基地の周りには、頑丈なフェンスが張り巡らされ入口部分は門番がいて一般人は絶対に入れない。
住宅地帯は一面に芝生が敷き詰められ
一軒、一軒の敷地が広々としていた。大方の土地を米軍基地に奪われ、残った土地にひしめき合って暮らしている、我々ウチナーンチュ(沖縄の人)にとって何とも羨ましい限りの一帯であった。
ハローウィンの日は入っていいんだよ。
「チクチィー」と叫びながら近所の子供達は徒党を組んで、意気揚々と袋を持って家族部隊に入っていく。チクチィーとは
Trick or Treat の事だが、お菓子をくれないといたずらするぞ、という意味で、英語が聞き取れないウチナーのワラバー(沖縄の子供)たちは「チクチィー」と言えばお菓子を貰えると思ってたよ。
大人たちは、お菓子をアメリカーにねだ
るなんてみっともないと、眉をひそめるが
年に一度の事だし、まちやぐぁー(小さな雑貨店)にも滅多に売ってないアメリカのお菓子が手に入るし、何よりお菓子に飢えてる子供達がその日を心待ちにしているので、大目に見てくれていた。
ワラバー達はハローウィンがどういった祭りなのかも知らず、軍属の子供達がお化けや魔女の仮装をしているので単純にお化け祭りと呼んでいた。
本来キリスト教では諸聖人の日の前夜祭で、毎年の収穫を祝う日であり、死者の霊が帰ってくる日で一緒に悪霊もやって来ると信じられている。悪霊を祓うための祭りとして行われているらしい。
さて、まず基地の入口に近い家から玄関の戸を叩く。「チクチィー」と挨拶をしたつもりで袋を差し出すと、大抵は軍人の奥さんらしき婦人が出てきて、ワラバー達にとっては見たことがないアメリカのお菓子を1.2個入れてくれる。チョコレート、クッキー、あめ玉、キャラメル、等等、袋一杯になるまで各家の戸を叩いてまわるのだ。
ある家では米兵と思しき男性が出てきて
「Get Out !」と追い返された。たまにそういう人がいるがめげずに次の家の戸を叩く。
軍属の子供達はカボチャのランタンを持って、お化けや骸骨、魔女に扮装してワラバー達と同じように、楽しそうに練り歩いている。
そろそろ帰る時間かな、と思い、ふとワラバー達の群れを見渡すと後ろの方に見慣れない子がいる。
何処かの集団から紛れ込んだのだろうな
としか思わなかった。
親に怒られないうちに早く「かえーろ」と叫び、お菓子袋を大事に抱え帰途についた。
翌日の学校では貰ったお菓子の自慢話で花が咲く。
近所の子がふと呟いた。昨日〇〇〇来てたよね。
〇〇〇は去年交通事故で亡くなった子だ。
普天間ふしぎ語り @okiyomi
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