いろんなことを教えてくれる先輩が、なぜかアレはまだ教えてくれない

まみ。

第1話 風でスカートがめくれて大変なことに

「あれ?先輩じゃないですか?アタシの地元で、何してるんですか?」


「俺の旧友の家に行こうと思ったんだが、道に迷ってしまったみたいで。」


「先輩の旧友って、あの人ですよね?ほら、あれ、あれ。あー、名前が喉まで出かかっているのに、なぜか思い出せないときって、よくあるんですよね。」


「舌端現象か?」


「何て言いました?」


「舌端現象だ。舌先現象やTOT現象とも言う。」


「何ですか?それ?」


「名前を知っていて喉まで出かかっているのに、なぜか思い出せない現象のことだ。」


「そうなんです。甘党なことも覚えているし、たっぷり砂糖をかける人なんですよね?」


「そこまで出て思い出せないのは、まさにベイカーベイカーパラドクスだな。」


「何て言ったんですか?」


「ベイカーベイカーパラドクスだ。パン屋のことをベイカーと言うのは知っているか?」


「もしかしてベーカリーのことですか?」


「ま、そういうことだ。パン屋、すなわちベイカーだということまで思い出せても、なぜかベイカーさんという名前が思い出せないって現象のことだ。」


「そんな不思議なことって、現実にありますか?」


「いやいや、まさにたった今、目の前で起きていたから、俺がびっくりしたんだ。」


「いつの間に起きていたんですか?」


「俺の旧友の名前が佐藤なんだ。」


「あー、そうだ!佐藤さんでしたね!言われたら、思い出しました!」


「でもいつも佐藤が、たっぷり砂糖をかけることまで知っていたんだろ?」


「そうですね。有名ですよね?」


「これじゃ、サトウサトウパラドクスと呼びたいな。」


「今、何て言ったんですか?」


「いや、今のは忘れてくれ。」


「じゃあ、アタシが佐藤さんの家まで案内しましょうか?」


「それは本当に助かる。完全に迷ってしまって、佐藤も電話に出てくれないし。」


「こっちです。」


「あ、モンロー現象に気をつけるんだ!」


「何ですか?モンロー?」


「危なかったな。危うくマリリン・モンローみたいになってしまうところだったぞ。」


「マリリンって誰ですか?」


「マリリン・モンローを知らないのか?」


「有名人ですか?」


「マリリン・モンローは、アメリカの有名な女優の名前だ。」


「へー、先輩からアタシって、そんな美人に見えてるんですか?」


「マリリン・モンローと言えば、ある映画のシーンが有名なんだ。」


「どんな映画なのか、ぜひ聞きたいです。」


「下からの風でスカートがめくれて、大変なことになってしまうんだ。」


「先輩って、そういう映画が好きなんですね。もしかして今の風で、アタシのマリリンを見ちゃったんですか?」


「どうやら話が噛み合っていないようだな。」


(第2話に続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る