第2話 歩里井屋の仕事っぷり


 と。

 婆さん……本契約をもう交わしたので正式依頼人となった光浪の婆さんに了承を受けて俺は仕事準備をする。

 まずは屋敷を入った玄関から出て裏手の小屋に来て、入る前にお得意長タオルを頭に巻いて、「オートロックの暗証IDはね。******よ」と口頭で光浪の婆さんに言われたとおりに解除して……山小屋にも見るようなぶ厚い木製扉に入る俺。

 この外見もそうだがご丁寧なレンガ積みのあわよくば一人暮らしならゆうに寝泊まりできそうな広さの室内は、板張りの床も埃はうっすらで、住もうと思えば住める小屋にしておくにはもったいない平屋の小屋だ。ま、風呂とトイレは流石にないようだが、両サイドに様々な道具や資材が整理されて棚や壁掛けで収納されている。

 内側の小屋自体の幅は推定五メートル前後で……奥行きは向こう正面に見える大扉まで推定三十メートルと言ったところだ。大扉は二枚合わせ引き戸でセンター開き。この内側床のど真ん中に……ん? ……床下収納庫を思わせる推定面積畳半畳分と言った感じの蓋がある。取手は簡単な収納タイプで、そのままでは蹴躓くことは無いタイプの指で一カ所を穿るように穿って回転させると持ち手が現れるタイプだが、まあ、ありふれた床下収納庫の大きめ蓋だ。

「どうしてここだけが? アナログなんだ?」と一抹の疑問視がこの脳裏を過るも……あのセコイアの木々を手入れするとなるとどんな方法を使ったとしても、斜向かいの家の草むしりよりは厄介で手間がいるのは、小学生でも判別できるであろぉ……。

 このごろの日照時間は最寄り気象台の情報によると……『本日の日没は十七時五十四分です』のスマホアプリで毎日の習慣的に染みついていて確認している。俺の仕事は日長も左右する可能性は否定できないので、「これを終わらすには……」と日の出日の入りは把握する癖が抜けない。

 実は俺には隠された尋常にない特殊能力がある……その昔、かれこれ推定五十五年くらい前のある日……この惑星に移住を求めてやってきたバルトラ星属の馬の首星団の手前の宇宙的距離では……この惑星レベルでは何万光年もの距離でも、地上で言うところの数キロメートルぐらいの位置にあるハビタブルゾーンに守られたこの惑星の性質に似た青……いいや、白き大気に覆われた惑星の人類だった……ような……記憶が……たまに見る夢枕に現れることもある……遠き先祖からの記憶……いいや、DNA塩基に書き込まれた設計図の中の記憶は記録。見ても何ちゃなく、ただただ四半世紀以上の投影では流石にとどまっていてもなんの不思議でもない。

 が、この惑星のこの国では……そんな能力を発揮してしまえば、鼻つまみ者か、弾かれ者……勝手なSNS不可思議見っけ個人記者に盗撮されて、俺の許可なく写せばそうなるのがこの国の司法だ。が、それがたたないこの国のお人柄は好奇心旺盛ながらの集団行動協調性好き主義者が、正解で、少数派の特に数人から一人主義の者は誤りとなる傾向も大にしての現実だ。

 それに、これまで作られてきた道具や物品やらは、使い方次第で、かつ、使いこなせれば重宝モノのラッキーアイテムでもある。

 と、心の声を……どうやら俺は口を突いてボソボソってな感じで零れるようだ。自覚は無かったが、とあるお人に、「何言ってるの?」「いいや、なにも!」「今、しゃっべていたよ」「そうか?」「……これをこうして、とか。あれはこうだからこうすれば。俺ってあったまいい。って? 自己暗示なの?」「……ああ、まあ、そうか。確かに段取りを胸の内では言っていたから……」と言った、とある昔のアルバイト先の、何故か俺の側にいた女子に言われたこともあった。ま、教えてくれたのかは今となっては知る由もないのだが……そんなことを一々確認しなくともなので、でも、お陰様でそんな俺の癖を他者に教わったことも事実で、ある意味ありがたかった。

 ま、俺は、一人、その仕事に対しモクモクと無言で遂行していき……たまに確認事項を周囲の人に聞くタイプだった。仕事中……否定するつもりはもうとうないが、くっちゃベリながらごゆっくり手足を動かす協調性集団行動主義の……余りあるコミュニケーションたっぷりしちゃう主義者にはどうしてか? 属せなかった。明るい世間話ならいいが、その仕事をデスリ合っているぐらいなら、とっととやめて自身にあった仕事を見つけてやった方がいいのではとさえ思っていた。

 時間は戻せないのだから。たとえオーバーサイエンスをもってしても今現在事実でできる異星人すら俺も知らない。出来る異星人が存在するならば、もうとっくにこの惑星は住みよい世界へと変わっているはずだ。

 と、まるめてある縄梯子と、大きめノコギリと剪定ばさみやらがぶら下がっているベルトが、道具が納まった棚の端や壁のフックにぶら下がっていて……それを肩掛けして……向こう正面の大扉のぶ厚く重めの旧式閂を手動で解除して……ゴロゴロと音を伴わせた……向かって右側の引き扉を……思いのほか軽い感じで開ける俺。

 そこにはホロなしの軽トラック……所謂軽トラが向こうのシャッターに向かって止まっていた。

 ナンバープレートは無い。ま、私有地内なら車検すら要らない。だが、少しでも公道に乗り入れるなら……ナンバープレートと、車検は最低限必要だ。と言うことは、この屋敷の敷地内専用の軽トラだ。

 にしても、まるで新品の如く塗装が外光の暗がりでも輝いている……荷台に、縄梯子と、肩掛け中の道具のベルトを置いて、右横にホロのアングルと左横に鉄製櫓が置かれていて、軽トラック荷台の上に1トンまで制限表示のクレーンがレールにあって、太いケーブルで本体からぶら下がる……四種の、上、下、前、後、の電動指示用ボタンのついたリモコンがある。

 ちなみにこの軽トラ積載量は500キログラム以下だ。

 アングル櫓を乗せると、その陰の壁に横向きでかかっている脚立が取れる。

 俺は専用の釣り紐をアングル櫓の上部四つ角に溶接されているそれぞれのフックに引っ掛けて、クレーンで釣り上げ軽トラ荷台に乗せて……。三種の脚立のメートル表示を黙認して……一番長い300表示の脚立を、真ん中で肩掛けして……骨組み直方体タイプの櫓の隙間氏後ろから差し込んで……つける。櫓がなくとも300は脚立状態で三メートルなので、本体運転席裏のアングルに斜にかけて、荷台裏のあおりに足を止めて、長めの縄でナンキン縛りをすれば……いいのだが、斜になった脚立の前方がシャッター口上に若干当たる気もあるようだ。なので、光浪の婆さんが言ってた元使用人が工夫して……こうすることで、室内でもこの長め脚立を積み込めて、シャッターを破損させないことを考え出してくれていたのだと、俺はありがたくそのやりかたに便乗させてもらった。今日は幸いに晴れているが、例えば雨が降っていてもここで積載できればこの時間は雨に濡れなくて済むといったことが容易に考えられる俺だ。

 なんやかんだでスマホを見れば、十時三十九分。用意が整ったので、いよいよをもってシャッターを開けようと運転席横を通って歩み寄ると! 暗証番号で解除するパネルだが……何やらのレーダーレンズがついている。「もしかして」と俺は軽トラに乗り込んだ。もうすでにダッシュボードにスマートキーがあるのを黙認している。近頃では馴染みあるのであろう……一般的自動車で使用されているパワースイッチを押す。と電気作用の……所謂EV車だった。

 ダッシュボード上に、ナビかetcかとも思ったが、それにしても見慣れぬレーザー光線発射ガンがあるので、臆することなく上のボタンをタッチすると……レーザー光線が真っ直ぐに――シャッターパネルにあったレンズへと伸びて! フュイッフュイ……と作動音を伴ってシャッターが開く。

 右手ハンドルでオートマチックギヤーシフトレバーをDにして、アクセルをゆっくりと踏み込む……と、ま、通常のEV車同様に進みはじめる軽トラ……。この屋敷敷地内に入ってきた格子門からの道路セコイアの下へと走らせる。こうして向かっている束の間でも、この脳裏では入ってきたときのセコイアの状態を思い浮かべて……段取っている。

 と、手前一本目の下に止めて、見上げつつも……腰に道具をキープしたベルトを着けて、この長さではかなり重い縄梯子を襷ベルトで背負って、後部櫓につけてきた三メートルの脚立のバランスのいい中心から探って、左肩に担う。

 所要推定時間三分弱でセコイアの下に来て……脚立をたてて、てっぺんまで登る俺。大概天辺の板には昇るなの警告表示がしてあるが、少しでも高さを欲しがって、俺は脚立の扱いはベテランの域に達していると自負していて、乗って、片足でたわみとしなり具合を図って、セコイアの太めの張っている幹近くの枝元に……登る。息つく暇もないと上を見て、それと同等の太さの枝を梯子代わりに木登りして……上部の幹が細くなってもうこの体重と道具、特に縄梯子の重みも考慮した折れるギリギリの高さまで俺は登る。

「光浪屋敷の敷地って……」

 些かポカーンとするも、本来の依頼を果たすべく、早速仕事にとりかかる俺。

「何て広さだ。奥には農地が広大にありやがる上に、その奥の山にかかる傾斜の山肌までもどうやらここんちなのかよ!」と脳裏の一部で呆れかえりつつ……本来の目的のセコイアの手入れをはじめる。

 一枝の幹から正味一メートルほど残し腰のノコギリをフックから外して枝を切る俺。この高さではもし電動チェーンソーを落とせば大変なことになるのは容易に分かるので、手漕ぎ式だ。枝は重みでささくれを残して落ちて行くも、茂った途中の枝に引っかかる。が、まあいい。縄梯子の一目で見極められるように巻いてある一段目の端っこを引っかけて……思いっきりというか、引力とその重みで地上部に向かって伸び落ちていき……カランと舗装の地面に逆の端っこが落ちた音が明らかにしたので、俺は、ゆっくりと適度な位置に足をつけて、引っかかり具合を確認する。まずは右手で梯子を引き。今度は右足をゆっくりと適度な梯子の位置にかけて踏ん張り、引っかかり具合は良好で、両足をかけて体重をかけるも、引っかかり具合良好で踏ん張るごとに幹自体が揺らめくも、この体重六十六キログラムを諸とも受けても幹自体が折れることはなさそうだ。

「よし」

 俺は、その位置当たりの幹を見る。切られた古い瘤から新たな幹が生えているところを見つけて、そのあたりの四方八方に茂る枝をノコギリで枝打ちする。幹に対して水平の当てるには充分な状態になった幹を瘤下推定ニ十センチのところを切りはじめる……片手の親指から小指までが、ピーンと広げて約二十三センチなことは自負していて、定規などなくとも……だいたいでいい……セコイアの高さが見た目に概略揃っていればいい。

 降りていきつつ……今度は太くなく細くなく四方八方に茂った枝を見極めて剝いていく……途中でこの縄梯子を引っかけた要領で途中のマス目に枝を引っかけてもいて……下まで行って、道具を腰のベルトに全て納めて、再び今度は縄梯子を上って行く……が、途中生かした枝もあるので、そのしなり具合も足を使って揺さぶり確認することも怠らずにだ。

 一番上に引っ掛けた縄梯子のマス目を外して、下に落とす。が、まだ途中にマス目を引っかけたので、この身長一メートル七十五センチ弱の手足を使用することを考慮した位置に、今度は身長の目線の高さから脛当たりの距離でこのマス目を枝にかけているので、だいたいスムーズに降りていける……このパターンを残り本数分行えば、本日のケイベン仕事の完了で、請求書に一万円税込み額を現ナマで頂いて、領収書を、相手がいるいらないは関係なく切って、お暇するだけだ。

 と、繰り返し行って……最後の一本を終えて、縄梯子の一番下の引っかけたマス目を、正味一メートルの枝を三十センチほどまで切り直し、両足が地面を捕えて、優位を一応確認し、横に引っ張り最後に枝から外す。

 軽トラに、俺は腰の道具セットベルトを外しおいて、縄梯子をながあぁく舗装地面に伸ばし……これまた重宝アイテムを今気づいたが、櫓の後ろにハンドル式の簡易ドラムがあり、縄梯子の一番端を横に伸ばした状態で中心帽のフックに均等にひっかけて、ハンドルをグルグルと回すと……縄梯子がまるまっていく……持ってきたときの襷がけバンドを軸から外す前の中心棒の溝に滑らせ……まるめた中を通すと、出してきたときの状態になった。

「元使用人って、相当に、アッタマいかったんだ」と感心しつつ……俺は、荷台に梯子を乗せて三メートル脚立を櫓につけて、軽トラで小屋へと戻る……。


 ……近づいて、推定距離五メートルでシャッターが勝手に開きだし! 車庫バックで小屋内に軽トラを納めると、パワースイッチをオフにしたとたん! シャッターが勝手に閉じる。

「すげえ。ここまで。でもこれって、オリジナルだよな。巷で売っている方式な感じが全くないぜ」と感心する心の声を胸に、でも、多少は口から洩れてもいそうだが、他に人はいないし。まあ、いたとしても平気の平然面で、俺は、片付け作業をそつなくするであろう……から、と。脚立やらを所定の場所に戻し、クレーンで櫓を下し……これまた所定の位置に下す。数センチ単位は許容範囲で、ま、車庫から中扉を通って、閉じて閂をかけ、縄梯子と腰ベルトを戻し……小屋を出る。

 太陽がこの国では西の空へと移動している現象位置であったので察しはつけていたが、流石に時間は気になって、スマホで確認すると……十八時五分前だった。


*この大木の手入れの仕方は、わたくし音太浪の想像によるやり方で、一般的に可能か否かは分かりかねますので。悪しからず*



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