第42話「違いを認めて、自分らしく生きる」
#第42話「違いを認めて、自分らしく生きる」
「リリアさん、今、少しお時間いいですか?」
声をかけてきたのはユリアだった。
ユリアは男性が苦手。恋愛対象が女性ということで少し珍しい女性だ。私も男性が恋愛対象ではないという共通点はあるので嬉しい来訪だった。最近はお互い忙しくて、話す時間も減っていたのだ。
「もちろん、大丈夫だよ。どうかした?」
ユリアの隣には、見知らぬ男性が立っていた。気の弱そうな瞳、控えめな立ち居振る舞い。男性が苦手という彼女の隣に立つには、やや不思議にも思えた。
「この人、カイ・フィオランっていうんです。実は少し、話を聞いてあげてほしくて」
「……カイさん、ですね。どうぞ、入ってください」
応接室に案内すると、彼はぎこちなく腰を下ろした。ユリアは私の隣に座ると、少し微笑んで頷いた。
「実は……カイは、女性に対して恋愛感情が持てないんです」
私は驚いた。
ユリアが男性が苦手で女性を好きだと告白してくれたのは少し前のことだ。だからこそ、この逆の立場であるカイの存在が意外だった。世の中にはいろいろな人がいる。
「なるほど……私に話したいことがあるのね?」
カイは目を伏せたまま、ぽつりぽつりと話し始めた。
「誰にも言えないんです。こんなこと。おかしいって思われるのが怖くて……」
「おかしい……か」
私は言葉を選びながら、そっと続けた。
「カイさん。おかしいかどうかを決めるのは、誰かじゃなくて自分自身じゃないかな」
彼の肩がわずかに震えた。
「みんな、自分の“常識”を信じて生きてる。その常識と違うことを受け入れるのは簡単じゃない。それに反発されるのも当然だと思う」
「……やっぱり、自分は……間違ってるんでしょうか」
「そうは思わないよ。例えば、これまで私は異性として男性に惹かれたことが全くない。かと言って女性に恋をすることもない。好きな人がいるとしたら、家族。中でも――弟のルカ。私は彼のことが、誰よりも好き。大切で、大切で仕方がない」
ユリアが少し笑った。「リリアさんは、昔からそうおっしゃってますよね」
「うん。だから普通の人から見れば私は変なのかもしれない。でも間違っているとは思わない」
「人それぞれ、育った環境も、考え方も違う。だから、他人にすべてを理解してもらおうとするのは難しい。でも、自分で自分を認めることはできる。最大の理解者は自分だからね。そして、ユリアや私のように肯定してくれる人が、世の中には必ずいる」
「……でも、周りの目が怖いです」
「それは少し分かるよ。私も同じだ。理解してくれない人の方が多いだろうからね。でも怖いなら無理に周りに伝える必要もないんじゃないかな。もし誰かに聞いて欲しくなったら私やユリアを誘えばいい。私たちは少なくとも君の理解者だ。君のことがおかしいなんて全く思わない」
「そして私はこう思ってる。人に迷惑をかけない限り、誰かに合わせる必要はない。私は私のままで生きたい。無理して笑ったり、嘘をついて好かれるくらいなら、本当の自分を大切にしたい。それが私にとって幸せだからね」
「だから君も君らしく自分の考えている通りに人生を歩めばいいんじゃないかな。もちろん他人に迷惑をかけたら駄目。無理に他人を自分に合わせようとしたり権利を主張したりしたら……それは君が恐れている周りの人と同じになってしまうかもしれないから注意した方がいいよ」
「……ありがとうございます。自分の幸せ、自分で探してみます」
彼はそう言って、少しだけ涙を滲ませていた。
帰っていく彼の背中を見送りながら、私はふとルカの笑顔を思い浮かべた。
「私も……自分の幸せを、探していかないとね」
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