2章「最後の希望、弟の誕生とリリアの心の変化」
第5話「最後の希望・ルカの誕生」
#第5話「最後の希望・ルカの誕生」
我が家には弟や妹が次々と生まれた。
けれど、誰ひとり魔法の才能を持った子はいなかった。魔力なしもしくは魔力微量。
魔力が微量でもあれば魔法は使えるかもしれないが魔法使いとしては全く戦力にならない。
子供が生まれ1歳の時には魔力の検査をする。
その検査のたびに父と母の顔が曇っていくのを、私は何度も見てきた。
そしてそのたびに、私は「私が頑張らなければ」と思い直した。
けれど、頑張れば頑張るほどに思い知らされたのは、私レベルの力では何も変えられないという事実でもあった。
討伐で怪我人は絶えず、領の外れには魔物が根付くようになった。
交易路もまともに機能せず、商人は次第に来なくなった。物価は上がり、領民の生活は苦しくなる一方。
生活が苦しくなった領民の中には夜逃げする人もいた。他領に逃げたのだ。
でも責められない。この領にいては厳しい、耐えきれないのだ。
当然のことだが人が減れば残る人は更に生活は厳しくなる。
悪循環に陥っていった。
誰もが疲れ、笑いが少なくなっていった。
そして私も――笑わなくなった。
「冷たい」
「無表情」
「いつも難しい顔をしている」
そう言われても、もう気にしなくなっていた。
私が笑ったところで、領が良くなるわけじゃないのだから。
つらくて泣くことも多かったが
いつからか泣くこともなくなった。泣いても何も変わらない。
そうして自分の中から感情が無くなっていくのが分かった。
それでも私は魔法の修行をやめなかった。
他の兄弟たちが5歳ぐらいになると他領へ“勉強”という名目で出稼ぎに出されていく中、私は唯一ヴェルド家に残された魔法使いとして、騎士団とともに幾度となく討伐に出た。
魔力は平凡以下。それはわかっている。
けれど私は成長を止めるわけにはいかない。“平凡以下でも戦える”という証明にもなりたかった。
いつしか私も15歳になり、わずかながら成長した。領外でも「魔力はやや劣るが頼れる魔法使い」として多少は認められるようになった。
それでも1人の、、、私程度の力は微々たるものだった。
領の状況は全く良くならない。それどころか悪くなっていく。
訓練と魔物討伐で神経をすり減らす毎日。
私は心の中でずっと問い続けていた。
「……これでいいの? 本当に、これで……いつか本当の意味で認められ、領がよくなる日が来るのだろうか?」
自問自答を繰り返す毎日。
そんなときだった。
両親から、また子供が生まれると聞かされた。私とガイル兄を含めて10番目の子供。私の15歳年下だ。
「今度こそ、魔力のある子を……」
「年齢的にもこれが最後の希望だ」
その言葉を聞いたとき、私は微かに笑ったかもしれない。
「これで何度目なの?」と。
そして最後という言葉を聞いて少し安堵もした。もう両親の落ち込む姿を見るのも今回で最後だ。
私は期待しないようにしていた。
期待して、失望するのはもう十分だった。
弟――ルカが生まれたときも、私はほとんど無関心を装っていた。
「どうせ、また……」
そんな冷めた気持ちで、私は赤ん坊を見た。
──やはり、魔力は感じない。
ほんのわずかに感じる気もするが気のせいかもしれない。そんなレベルだ。
私は父さんと母さんに告げた。
「……言っちゃ悪いけど私にはルカには魔力が感じられない。1歳の魔力検査は期待しない方がいいわ。落胆するだけだから」
母さんはそれでも、ルカを抱いて微笑んでいた。
私はただ黙ってその横顔を見つめていた――
ある時、ルカの乳母マリアが騒いでいた。 かなり暗くなってきた我が家で唯一明るい存在、それがマリアだった。あの明るさには何度も救われた。
そんなマリアが今日も騒いでいた
「ルカ様、絵本をめくり、『マジック』って喋った!この子はやばいです!」
そんなはずはない。0歳児がしゃべるわけはないだろう。魔法の詠唱を知っているとかあり得ない。
「…何か、変ね」
でも思い直した。何かの聞き間違いだろう。真に受けるのはおかしい。
そうして“最後の希望”ルカが生まれた。
でもその時の私は何の希望も見いだせなかった。
おそらくこの子も5歳ぐらいになれば他領に行くことになるだろう。申し訳ないが仕方がない。
本当に、希望なんてものがあるのなら。
せめてこの手でこの子を守れるだけの強さが、私にあればよかったのに――
私に実力がなくて……本当にごめんね。
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