異世界ロマンス一代男~ジャン・ロランの多忙にして華麗なる日常 登場編

一ノ瀬 薫

第1話 ロラン家の四代目

 今から約五十前にロラン家は男爵となった。

 その前は準男爵でこれは八十年前、その前は騎士爵でちょうど百年ほど前の話だ。

 この時、騎士爵に叙せられたアーノルドが、ロラン家を興したその人である。


 その当時王国は有力諸侯たちが覇権を争っており、王室は彼らの後ろ盾によってかろうじて存在している神輿のようなものだった。

 そんな中、辺境にいたケンリック伯爵は近隣の中小領主を糾合し、王国を統一すべく兵を挙げた。

 これが王国統一戦争の始まりである。


 アーノルドはこの時、兵の一人として参加した農民の三男だったが、そこで頭角を現し、最後は部隊長として活躍した。

 王国統一戦争は終わり、王国統一に尽力したケンリック伯爵は侯爵に叙せられ、彼の下で武勇の名を上げたアーノルドは、騎士爵とロラン姓を王室より賜った。

 国王は王室の地位の安定を図るため、有力貴族のケンリック侯爵の娘を側妃にし、生まれた王子を王太子とした。

 この王太子がその後国王になり、義父となったケンリック侯爵は公爵に陞爵、それに伴って子家であるロラン家も、準男爵に叙せられることとなった。


 ロラン家の二代目マルス・ロランは、戦争後の平和な時代の訪れにいち早く適応し、出身である辺境に得た領地で繊維業を始めた。

 これが軌道に乗ったことで、マルスは近隣の領主と生産に関する取引の契約を結び、自領の近隣一帯を繊維原料の一大生産地とし、王国の経済発展に貢献した。

 この功績が認められ、マルス・ロランは男爵に陞爵したが、これは専ら多額の納税のおかげだろうと蔑む貴族もいた。

 マルスはこれを聞くと、これからはかねが剣の時代だ、金をうまく使えなければ貴族と言えども生き残ることはできまいと、高笑いしたそうである。


 三代目を継いだカールは幼いころから王都で育ち、流行に敏感な洒落男として有名になった。

 彼はそのセンスを生かすべく、家業を利用し、服飾業界に名乗りを上げた。

 それまで服飾産業では、注文主の注文に応じて、仕立て屋が個別に制作するという家内工業のような形だった。

 当然デザインは仕立て屋個人のセンスに委ねられていた。

 カールはこれを統合、分業化することを試み、〈ロラン〉ブランドを編み出した。


 〈ロラン〉ブランドは貴族の服飾にとどまらず、これに貴族の社交界に憧れる平民の富裕層もターゲットにし、また貴族にも社交服飾とは別に、日常的な生活のためにデザインされた衣服を製作し、販売を始めた。

 これが裕福な商家の女性に爆発的な人気となり、王国を代表する服飾取り扱い商店となった。


 カールは先進的だった父の血を受け継ぎ、貴族という身分にこだわりが無かったので、数多貴族から婚姻の申し込みがあったが、これを択ばなかった。

 そして当時、王都の劇場に出演していた端役の女優だったルイーズを見初めると、彼女を妻とした。

 ルイーズは〈ロラン〉ブランドのデザイナー兼モデルとして活躍し、王都の富裕な婦人の間でカリスマ的な人気を博した。

 そのカールとルイーズの長子として生まれたのが、ジャンだった。


 ジャンは幼少期から、母から受け継いだ美貌と、父から受け継いだ明るい性格で周りの人々を魅了していた。

 十二才の時に王都教会で受けた儀式で、加護が与えられていることが分かった。

 しかし加護は本人以外には知らされず、これを明かすか明かさないかは本人の意思に委ねられていた。


 この時、父であるカールは息子に加護があったことを知らされると告げた。

「我が家ではな、加護はこれを自得すべしというありがたい家訓がある。だからお前はこれを精進すれば何かの役に立てることができるかもしれない。だからそれがなにかは明かすも明かさぬも好きにすればよい」

 以降、ジャンは誰に問われても答えず、そのうち彼に加護がある事さえ、忘れ去られていった。

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