第32話 筋肉令嬢、ウラギールへ向かう ※一部ルシアン視点

 森の奥に向かった私はブレーメンからウラギールについての話を聞いた。


「ってことは……旧セラフがあんな状況だったのはウラギールのせいってことですか?」

「はい……」


――ドォン!


 ついムカついてしまって、森の木を叩いたら折れてしまった。

 その音は森の中に響き、虫たちはどこかへ去っていく。


「ひょっとしてウラギールに魔物が向かってるのも――」

「尚更許せないですね!」

「へっ!?」

「だって代々逃げることができずに、ずっと縛りつけられていたんですよ!」


 ブレーメンの家族は代々逃げられないように、誰かが人質になっていた。

 ブレーメン自体も、自分が人質だったことを大人になってから知ったらしい。

 彼の両親は子どもであるブレーメンのために、言うことを聞くしかなかったのだろう。


「もおおおおお! ほんと最低なやつですね!」

「ヒィ!?」


 親を思う子の気持ちを考えるとつい発狂してしまう。

 少し声が大きくてブレーメンを驚かせてしまった。


「すぐに連れ出してセラフに住みましょう! 動物もたくさんいるから、環境としては良いですよ!」

「魔物が動物……」


 動物使いのブレーメンなら、動物が多い方が良いだろう。

 それに子どもの才能は両親に似ていることが多いから、子育ての環境としては良いと思う。


「ウラギールはこの先でいいですか?」

「はい」


 周囲が木に囲まれているから中々先が見えなかったが、森を抜けたらすぐに町があるらしい。


「あのー……それよりも、俺はいつまで運ばれていたらいいですか?」

「もちろん、町に着くまでです!」


 自分で走ったらウラギールに到着するのがいつになるのかもわからない。

 イヌやネコに乗ったとしても、私に追いつけないからね。


「はぁー」


 ブレーメンは諦めたのか、捕獲された動物のように私に担がれて運ばれて行く。

 この状況、上腕三頭筋を連れて帰った時を思い出す。

 もちろんあの時の私はまだ体が小さかったから、ほとんど引きずっていたけどね。



 ♢ ♢ ♢



「「「……はぁ」」」


 私たちのため息が、静まり返った部屋にやけに大きく響く。

 止める前にリリナはいなくなった。

 まさか人を抱えた状態で窓から飛び降りて行くなんて、誰も思わないだろう。

 考えていたのがバカらしくなるほどに突っ込む気力も失せて、全員が黙り込んだ。


「くくく……ルシアン様、どうしますか?」


 ガレスは笑いを堪えられないのだろう。

 私も笑いたいがそれどころではない。


「全く、あいつは何を考えているんだ。ルシアン様の立場を考えていないのか」


 俺よりもアシュレイの方が怒っている。

 それよりも――。


「あっ……リリナに国王選定のことを伝えてなかった」


 そういえば、リリナに国王選定中のことを伝えていなかった。

 側付きマッチョと言っているが、私の側にいることはほとんどなく、勝手に旧セラフを開発して町を発展させていたからな。

 ガレスとアシュレイの視線が私に向く。


「「……はぁー」」


 二人して大きなため息をつかれてしまった。

 私もリリナのことは言えないだろう。

 少なからず私もリリナに影響されてきたな。


「ガレス、リリナは大丈夫そうか?」

「きっと何食わぬ顔でブレーメンの家族を救って来ると思います」


 ガレスの言う通り、単体行動の方が素早い解決に繋がっていくだろう。

 ただ、妙な胸騒ぎが収まらない。


「町を壊さない確証はあるか?」

「「……」」


 やっぱり誰もがそう思うだろう。


「きっとあいつのことだから、魔物じゃなくて動物しかいなかったんですよ! って笑いながら帰ってきそうだな……」

「俺には向こうの国王選定の代表に正々堂々と拳で語りましょう! って言ってる姿が想像できる」


 アシュレイとガレスはリリナのやらかしそうなことを想像していた。

 私だってついでに魔物と手合わせでもしたり、ウラギールの代表と会えば暴走するのが目に見えている。

 最悪、ウラギールが旧セラフのようになるのが想像できる。


「はぁー、私たちも向かうか」

「ちゃんとルシアン様が手綱を締めてくださいね」


 私たちは重い腰を上げて、まずあるところに向かった。



「アースドラゴンよ、少しいいですか?」

『セラフの小僧どうしたんだ?』


 向かったのはセラフにある湯浴み場だ。

 湯に当たってるアースドラゴンに声をかける。

 ここからウラギールに向かうまで、きっと時間がかかるだろう。

 それを考慮すると移動時間を短縮させる必要があった。

 それに森の中には魔物が生息しているため、牽制する目的としてアースドラゴンは心強い味方になる。


「一緒にウラギールまで来てくれないか?」

『ハハハ!』


 アースドラゴンは町を揺さぶるような大きな声で笑うと、瞳を細めて牙を覗かせてニヤリと笑った。


『なぜお前の言うことを聞かないといけないんだ?』


 その声に含まれる圧力は、まるで肺を圧縮されるかのようで、呼吸すら浅くなる。

 思わず一歩下がろうとした足が、地面に縫いつけられたように動かなかった。

 私はアースドラゴンの脅威を忘れていた。

 目の前の相手は旧セラフを数時間で破壊させた張本人だ。

 だが、ここはアースドラゴンに頼まないといけない。


「リリナが魔物に襲撃されているウラギールへと向かった」

『なんだって!?』


 岩のような重たい体が、リリナの話をした途端ヒョイっと素早く立ち上がった。

 やはりリリナの話を持ち出して正解だった。


「ブレーメンの家族を助けだすと言っているが、リリナがウラギールを破壊せずに帰って来るとは――」

『思わないな』


 どうやらアースドラゴンも同じことを思っているようだ。

 リリナの力に対して怯えているところはあるが、ここの中では一番リリナの実力を知っている。

 だって、ずっと旧セラフに近づけなかった原因をすぐに解決したぐらいだからな。


「それにこのままだと、リリナがあなたを継ぐことになるでしょう」

『ん? それはどういうことだ……?』

「町を破壊する悪魔、あなたの悪名ですよ」


 鼻先が突然目の前に現れると、熱を帯びた吐息が頬を撫でる。

 無言のまま、巨大な瞳がこちらを見据える。

 アシュレイとガレスの手が、思わず腰の剣に伸びかけた。

 さすが私の騎士だな。


『早く乗らんか! このままだとあいつ悪魔を越して魔王だって言われるぞ?』

「たしかに……」


 あれだけの実力があれば魔王と言われてもおかしくない。

 湯浴み場にいたため、少し濡れている背中に私たちは乗った。

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