第28話 筋肉令嬢、私は普通の人ですよ?

「それで君たちはこの人に使役されている魔物なのかな?」


 ルシアン様の問いにイヌとネコは頷いていた。

 初めは側付きマッチョである私が事情聴取をしようとしたが、固まって動かないためルシアン様が代わりにやっている。

 プロテイン公爵家では、握り拳をチラつかせるか、我が家のペット達のエサ箱に入れれば自然と話すのだが、ここではやり方が違うようだ。


「いいなー。ルシアン様と二人きりで話せて」


 役に立たない不甲斐なさよりも、代わってほしいと思ってしまうほど、ルシアン様の事情聴取は優しい。

 あれは所謂デートってやつだろう。


「それにしてもこの人起きないな」

「アシュレイの力が弱いんじゃないの?」


 一方、私とアシュレイはまだ寝ている動物使いの男を起こしていた。

 ただ、私が起こそうとしたらアシュレイに止められたため見ているだけだ。

 私の力を使えば怪我なくトカゲさんも目覚める一撃を放てるのに、アシュレイには信用されなかった。


「この人ってどこに住んでいる人なのかしら?」


 男はネザライトコアを奪おうとした時、あれがあれば家族が救えると言っていた。

 見た目からして何かから逃れていたのか、断れない命令とかでもされていたのだろうか。


『あそこにいたぞ!』


 ニワさんは森の奥を見つめていた。

 たしかあっちの方って……。


「拳の圧力が飛んでいったほうね……」

「ウラギールか……」


 相変わらずアシュレイと話すタイミングは被るが、内容は全く違う。


「「はあー」」


 私とアシュレイはお互いため息をつく。

 それに今のため息も、アシュレイは何か勘違いしていそうだ。


「私は何もやってないよ? むしろウラギールっていかにも何かしそうな名前じゃない?」

「お前と比べたらウラギールの方が安心安全だ。それにウラギールは薬草の名前から取っている」


 どうやら裏切るからウラギールではなく、裏に効能があるギールという薬草が有名な町だったらしい。

 ただ、その薬草も今となっては過去になりつつあると。


「ウラギールからのスパイなら逃すわけにもいかないしな……」

「ルシアン様どうされます?」


 後の判断はルシアン様に任せるのが良いだろう。

 私にできることはルシアン様をお守りするぐらいだからね。


「んー、一度旧セラフに連れて行くのがいいか」

「ルシアン様も中々悪ですね」

「あそこは魔境のようなものだからね」


 ルシアン様とアシュレイはお互いに笑いながら見つめ合っていた。

 きっとたくさんの動物がいた方が、安心するという配慮なんだろう。

 さすがルシアン様だね!


「ニワさん、運ぶの手伝ってくれる?」

『オラが? 仕方ないなー』

「私はあのロバを運ばないといけないからね」


 アシュレイが男を運び、私がロバを運ぶことになった。

 ロバも未だに起きないため、私が抱えないといけないだろう。

 アシュレイは男を抱えると、ルシアン様とともにニワさんの背中に跨る。


「この際筋トレのために、あなた達も――」

『『アシハヤイ!』』


 イヌとネコも一緒に抱えようとしたが、我一番と走り出した。

 旧セラフまでの道のりを知っているのか不安だったので、私は後ろから追いかけることにした。



『ガウ……』

『ムリムリムリ!』


 旧セラフに着くと、イヌとネコは絶句していた。

 さっきまで叫んでいたのに、今度は言葉にならないようだ。


『ボス、アッタノカ?』


 声をかけてきたのはゴブさんだ。

 私は首を横に振る。


「アダマンタイトはなかったよ」


 アダマンタイトを採取しに行ったのに、あったのはネザライトコアだった。

 さすがにルシアン様の許可なく、持ってくるのはいけないからね。


「代わりにロバとイヌとネコを拾ってきた」

『フム……』


 ニワさんがヒヨコを連れてくるように紹介したが、なぜか戸惑っていた。

 いつもこういう気持ちだったのか……。


『『ヒィ……』』


 ゴブさんはイヌとネコに近づくと、どちらも声を揃えて、まるでロバのような声をあげて驚いていた。


『タイヘンダッタナ』

『ガオオォォォン!』

『タヌカッタニャー!』


 肩をポンと叩くと、ゴブさんにイヌとネコは泣きついていた。

 ゴブさんって動物にも懐かれる才能があったようだ。


「まるで魔王から救った英雄だな」


 アシュレイは私の方を見てボソッと呟いていたが、別に私は魔王ではない。

 ただ、迷子にならないように誘導していただけだ。


「ルシアン様、この男はどこで様子を見ましょうか?」

「リリナ、いい場所は知ってる?」


 ルシアン様から急に頼まれて、私は大きく手を上げた。


「はい、私が見ます――」

「「それはダメだ」」


 まさか一瞬にして拒否されてしまった。

 動物使いだとわかったから、もう無理に手合わせをしたいとも言わないのにな……。


「どこかに牢屋とかは……あっ、トカゲさんに聞いてみようか!」


 私は近くにいたトカゲさんに声をかけることにした。


「トカゲさーん、牢屋みたいなのは作れるかな?」

『ふぉん!? 牢屋か……』


 トカゲさんが魔力を込めると、地面がうねり、石柱が次々と突き出てくる。

 まるで巨大な生物がうごめいているようだった。

 土が格子状盛り上がり、石柱に絡まると、すぐに牢屋は完成した。

 さすがトカゲさんは土を扱うのは上手だね。

 それにトカゲさんの土属性魔法は、外壁にも使われてあるから、逃げ出す問題はないだろう。


「ルシアン様、準備できました!」


 私はルシアン様に牢屋が出来たことをすぐに知らせる。


「気軽にアースドラゴンに頼るあいつって魔物使いみたいなものじゃないのか……?」

「私もそう見えてきた」


 アシュレイとルシアン様は小声で何かを話し合っているのだろう。

 しばらくすると、男を抱えてやってきた。


『お主ら、魔物使いをこんなところに呼んで大丈夫なのか?』


 トカゲさんの言葉に私たちは顔を見合わせる。


「この人動物使いだよ?」

「なんで知ってるんだ?」


 今回もアシュレイと声が重なったが、考えが全く違っていた。

 トカゲさんも、首を傾げながらもジーッと男を見つめる。


『わしを操っていたのは、こいつと同じ魔力じゃ』


「「「へっ……?」」」


 今度は考えが一緒だったね。

 私もトカゲさんの言葉にびっくりしちゃった。


「この人、長生きしているんだね……」

『「「……」」』


 トカゲさんが長生きしていることは聞いていたけど、よほど長生きしている人間なんだろう。

 その秘訣、私も教えてもらわなくちゃね。


「みんなして……どうしたの?」」


 視線が私に向いているような気がしたが、やっぱりこっちを見ていた。


「お前って何を考えているかわからないな」

「リリナの良さでもあるんだけどね……」

『ふぉふぉ、愉快だな』


 その後もしばらくは私は変な人のような扱いをされていた。


「……なんで私が褒められてる空気じゃないのかしら。今日も頑張ったのに」

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