とにかくかわいいテディベアは悪役令嬢を救いたい
しゃぼてん
1章 お屋敷
第1話 おれ、テディベア!?
早くに両親を亡くしたおれはしせつで育ち、高校卒業後、仕事についたけど、そこはブラックな職場で、いじめられた。それでもねる時間をけずって毎日がんばってはたらき続けたけど、結局、うつ病になって失職。それから引きこもり続けてしばらくたった頃、おれはゴミだらけの部屋の中でとつぜん苦しくなって、長い時間のたうち回った後、気を失った。
目がさめたとき、おれはとてもいいにおいに包まれていて、全身がふかふか、ふわふわ、サラサラしているものに包まれていた。とにかく幸せな気分だ。
これが天国?
甘い香りのそよ風が吹いてくる。それが風じゃなくてねいきだと、おれはちょっとしてから気がついた。
おれの頭のすぐ上に顔がある。頭を動かしてよく見てみたら、天使のようにかわいい顔があった。一生ながめていられそうなかわいい子どものねがおだ。
おれがそのねがおを見ていたら、大人の女性の声が聞こえた。
「朝ですよ。クリスティーナお嬢様。起きてください」
「うーん……」
おれの顔のすぐそばでむにゃむにゃ言う声が聞こえる。おれは気がついた。
おれは今、この美少女にだかれている。いや、おれがだいているの? だき合っているの?
……え? 何この状態!?
何このじょうたいぃーー!!!!!!
天使のようにかわいい美少女クリスティーナはベッドの上に起きあがると、混乱するおれをむねにだきよせ、おれの顔にほおをすりすりした。
何このじょうたーい!!!!!?
それから、かれんな美しい少女はおれの全身を両手で軽々ともちあげ……あれ?????? なんでおれが軽々ともちあげられてるの……?
ぎもんに思ったけど。
「テディ、おはよう」
そのあいさつの、そのあまりのかわいさと幸せで、そのしゅんかん、おれはほぼ気絶した。
それから、たぶん少女は顔を洗ったりきがえたりしていたっぽいけど、おれはその間、ぼーっとしたままてんじょうを見ていた。
「お嬢様、テディは部屋に置いていってください」
「テディもいっしょにあさごはんをたべたいの」
「テディが汚れてしまいます。さぁ、テディとはまた後で遊びましょう」
クリスティーナという天使のような少女とその乳母らしき人は、部屋を出て行った。
一人取りのこされた後、ハグとすりすりとおはようで放心状態になっていたおれは、正気にもどり気がついた。
そういえば、おれ、どうなっちゃったの?
動こうとしたけど、なんかうまく動けない。
あれっ?
おれはごろんと転がってベッドから落っこちた。立ち上がろうとしたけど、なかなか立ち上がるのもたいへんだ。
まぁ、もうずっと、だるすぎて起き上がるのすら大変な日々だったけど。
でも、なんか、そういうだるさじゃなくて、体がうまく動かないんだよなぁ。
うでもあしもぼうになったみたいに、曲がらないし。
おれはなんとか鏡の前へ歩いていき、そして、そこに映っている、かわいいぬいぐるみにいやされた。
もこもこした丸っこいクマのぬいぐるみが鏡にうつっている。
まるい顔もまるい目も、ぜんぶかわいい。
もう、この部屋、かわいいものばかりだなー。
でも、一番かわいいのは、あの子、クリスティーナたんだよな。
クリスティーナ……?
おれはおもいだした。
クリスティーナといえば、おれがこの前、無料ダウンロードしてベッドにねころがったままやっていた90年代レトロRPGゲームにでてくる、悪役の女の子の名前だ。
とてもかわいいけど、とても暗いやんだ表情の子で、全身黒づくめのふくそうでいつもテディベアをだいている。
そして、命令に従い黙々と人を殺していく悪役魔法少女だ。
クリスティーナは、元々は高貴な貴族の生まれなのに、家族を全員殺されて悪い魔法使いにさらわれ、くわしい説明は省略されていたけど、いろいろとひどい目にあわされてきたっぽい、とにかくかわいそうな設定の少女だ。
ゲームの中のクリスティーナは、最後は心を取り戻したところで死んでしまう。
そして、クリスティーナが消えてしまった後で、取り残されたテディベアの丸い目からなみだがぽろりと落ちるのだ。
あのシーン、おれもおもわず泣いてしまった……
あれ? よく見れば、この鏡にうつっているのって、あのクリスティーナのテディベアじゃ……?
おれはよく見ようと、鏡に近づいた。すると、鏡の中のテディベアもこっちに近づいてきた。
あれ? おれは右手をあげた。鏡の中のテディベアは左手をあげた。
あれー? おれは左足をあげようとして、転んでしまった。鏡の中のテディベアもころりとかわいく転んでいる。
あっれぇー!!!!! おれ、テディベアになってない!?
おれは気がついた。どうやら、おれはあのゲームの世界にいるらしい。
あの悲劇の悪役魔法少女のテディベアとして!
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