お魚の歌

地図をひらきリアス式海岸を指先でフルコンプリートする不動心かな

と、ひとり呟く暮れ方の窓辺 ――やがて飽和ほうわする影――

 ……そして闇…… 「……ああ……もし今……何者かが闇の奥で柏手かしわでを打ったとしたら……   (…………水の底には絶えず誰かしらが横たわっている……)

「その時わたしは今のわたしでいられるか? ――そもそも〝わたしでいる〟とはいったいなんだろう――?

(――わたしでない君があなたの雛型ひながたの――魚から――人から姿を借りて生まれた――きみのあなたの顔をした――あなたのあなたの人魚姫――)(疑問)(疑問?)(共食いのような?)(――君のわたしの雛型が――君のあなたの風情でいたら――あなたはあなたの歌を歌うのか――)

 (音もなく)略奪りゃくだつに自己をゆだねて思うのは(熱のない脈拍) ――音―― そしてまた ――音――

 ――君の――

――君だけの猜疑心さいぎしん――

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