第32話 高校生監督
「さてと。そろそろ来たかな?」
イレさんがデスクに戻って電話をかけると、よく日に焼けた短髪の高校生が社長室に入ってきた。小柄な体格ながら、俊敏であることが一目で分かるバランスの取れた肉体は、サラブレッドを連想させる風格を漂わせている。
「こんちは~。」
高校生は、その容姿とは対象的に、明るく挨拶をして入室してくる。
「未来、よく来たな!ヨウ、こいつは中村未来。今日から、さかつくの監督だ。」
「は?」
「こんちは、中村未来と言います。今月から青空高校に転校してきました。」
「ま、松本 八(ヨウ)です。よろしく。」
「ヨウには、急な話で悪いな。未来に話がある。しばらく付き合ってくれ。」
ヨウと未来は、応接用の椅子に腰掛ける。
「未来。俺とヨウで、坂本造園の目標を立てたんだ。その目標を達成するため、お前の力がどうしても必要になる。」
「JFL昇格って感じですか?」
未来は、高校生ながら物怖じすることなく受け答える。
「まぁ、これを見てくれ。」
イレさんが、坂本造園 中期計画と書かれたプレゼン資料を配る。1枚目にタイトル、2枚目に中期目標、3枚目にTBDと書かれている。
*****
P1.『坂本造園 中期計画』
P2.『中期目標』
さかつくシティを造る
さかつくを中心にしたサッカー都市を造り
上げる。
目標:3年以内。
1.造園の力で、住みよい町を造る。
2.サッカーを中心に、人が集まる町にする
3.さかつくで、天皇杯制覇する
4.さかつくで、J1制覇する
P3.TBD
*****
「うげ、無茶すぎでしょ。1と2は分かんないけど、3と4は無理ですね。監督受けるのやめていいっすか?」
「監督は決定だ。もう、お前の親父さんと契約しちまった。」
「ま、 マジかよ………。」
さすがの未来も顔が青ざめている。
「そもそも、4の目標なんて不可能じゃないんすか?いま、さかつくはJ7じゃないですか。」
未来が詰め寄る。同じことをヨウも考えていた。
「ま、それを考えるのは、ヨウの仕事だ。未来は、ただ強いチームを作ればいい。」
「やっぱり俺がやるんすね………。」
ヨウは、もう観念している。
「この資料の3ページ目からはTBDにしてある。ヨウ、お前に仕上げてもらうからな。よろしく。」
「やっばりですか~。」
「ヨウは『まちカフェ』を立派にやり遂げたじゃないか。絶対なんとかなる!」
「うわ~。無茶ぶり………。」
未来がドン引きだ。
「さかつくを強くするってのも、まぁ、今のままでは無理だろうな。確かに最近勝てているが、たまたま自由にやれてるだけだ。ストレスも少ないし、プレッシャーに勝てるような経験ができてない。そもそも、さかつくは、そんなもん持ってない。」
「社長、なんでそんなに急いで強くなる必要があるんすか?」
未来が、ズバズバ問いかける。
「アリスがな、夢が見れるって言ったんだよ。」
「え?あの夢ですか?確かに………、なぜか俺がアリスの財布を拾ったり変だと思ってたんだ………。」
「え?川崎でアリスに会ったの?」
「えぇ、会いましたよ。葵さんにも会いました。うちの親父が懐かしがってましたよ。」
「え?わさびにも会ったの?懐かしがってた?」
「わさび?」
「葵ちゃんのことだ。」
未来の問いかけに、イレさんが答える。
「あ~、なんかアリスがそう呼んでたかな。
そう、葵さんもアリスの付き添いで来てたんで会いました。
アリスを親父に会わせた時にも付き添いで来てたんですが、親父が葵さんのことを良く知ってたんですよ。葵さんのおじいさんって、坂本造園の創業者なんですね。」
「じゃぁ、わさびは全部知ってるんだ。」
イレさんとヨウは、驚いて顔を見合わた。
わさびが布団に潜り込んでくるようになったのは、川崎から帰ってきてからだったな。関係………あるんだろうな。
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