灰の空に花束を

灰村カナタ

第1話 妹の死を思い出した日

――空が、灰色だった。


土の匂いもしないこの世界で、唯一わかるのは「命の値段」だけ。


「おい、立て。運搬台がひとつ空いてる。てめぇ、聞いてんのか?」


背中を蹴られた。

血の味が口の中に広がる。でも、俺は動かない。


「……死んだら、楽になれると思うなよ?」


兵士の声が耳に刺さる。

でも、それよりも気になるのは、自分の鼓動の鈍さだ。

寒い。けど、あったかいものがどこにあったか、思い出せない。


名前は――

灰村カナタ。元・人間。今・奴隷。

異世界アースラで、“価値なし”とされたスキル《状態異常:恐怖》を持つハズレ枠。


俺は、あの日から壊れた。


「妹さん、どんな顔してたっけな。ほら、魔導炉に突っ込まれる前に…」


それは、横で酒を飲んでいた兵士の“何気ない冗談”だった。


その瞬間、世界が止まった。


風が止まり、声が消え、色が落ちる。

頭の奥で、何かが「破裂」する音がした。


妹――アイナ。

俺より五つ年下の、やたら世話焼きで、生意気で、でも…最後にこう言った。


「カナタはさ、誰よりも優しいよ。だから――絶対、ひとりにならないで」


その笑顔が、焼きついて消えなかった。


俺は立ち上がる。

身体が重いのに、足が勝手に動く。

兵士の一人が「おい、てめぇ、動くなって――」と叫んだ瞬間、


ドグッ。

彼の頭が地面に転がった。


…誰がやった?

いや、わかってる。俺だ。


「お、おい、なんだ今の…こいつ、魔法使ったのか!? おい!スキルのチェックは――!」


奴らが慌てる。

恐怖の匂いが伝わってくる。

――ああ、これが俺のスキルか。


「いいか。俺の妹を“燃やした”のは、お前らだ。」


視界が赤く染まる。

兵士たちが次々に悲鳴を上げて倒れていく。


俺のスキル《状態異常:恐怖》

それは、“相手の感情を増幅させ、自壊させる”能力だった。


「この世界に、俺の命より重いもんなんか、もうねぇよ。」


その日、灰村カナタという少年が“復讐者”として目を覚ました。


その目に映る空は、まだ、灰色だった。

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