夏の終わり

阿由葉

第1話

酷く空気が乾いていた、窓の外からぼんやりと眺める外には残酷なまでに綺麗な青空が広がっていた。 教室を刺す日光は夏の訪れを示していた。 高校二年、そろそろ進路を決める頃、慌ただしく本を読み漁る人もいれば、悠長に遊んでる人もいた。 自分はそのどちらにもなれはしなかった。 就職 大学進学どれも自分にはどこか他人事で、酷く遅く流れるこの時間を酷く早く感じていた。 親は後悔のないように今を楽しめと言うけれど、学生が今を楽しむには足枷になるものが多すぎた。


授業を終える鐘の音が教室に鳴り響き、辺りから張り詰めた気が少しだけ緩んだように感じる。 自分の席に向かってきた友人と談笑を交える。 そんな会話の中でも入り込んでくるのはやはり進路という言葉。 今から5年も10年も先の事を考えて自分の進路を決めるだなんて僕には難しい。 それでも決めなければならないから自分の進路を決めた。 行く大学の決め方なんて言うのは在り来りで、大学4年間で自分がしたい事が決まった時に困らないように行ける範囲で1番良い大学に行く事を目標にした。


後の1年間は驚く程に早く流れた、目標を定めて勉強して、たまに息抜きで友達と遊んだりしながらふらふらと、きっと充実していたと思う。 そうして卒業式が始まって、形式化された退屈な時間が過ぎ去り、校庭で友達と最後の時間を過ごす。 自然と涙は出なかった、まだ続くと思っていたから、日常が終わる事はないと思っていたから。 周りの泣きじゃくる友達と写真を撮って、好きな子に告白をして、そんなテンプレート的な卒業式が終わった。 その後の4年間はあの夏よりも早く過ぎ去った。 就職したい企業も見つからず、やりたい事も見つからず、着慣れないスーツに堅苦しさを感じながらカフェで涼んでいる時、ふと卒業式の日に告白したあの子が目に入った。 話しかけようと席を立とうとした瞬間、向かいの席に男が座り、僕と彼女とを隔てた。 そこまで席が近い訳でもないのに彼女の話し声が鮮明に聞こえる。 ふと涙が零れ、その日僕の夏はようやく終わった。

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夏の終わり 阿由葉 @warui_edenne

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