ウラルの牙

モスクワ――クレムリン地下、皇帝執務室。


「……バイカル作戦は、予定より六時間遅れでの完了。

義勇軍団の残党はハバロフスク方向に逃走中、現地の軍閥と接触の恐れあり」


報告を終えた参謀の声に、プーチンは軽く頷いた。


「次はウラルだ」


彼は地図を指差した。

バシコルトスタン、スヴェルドロフスク、ペルミ、チェリャビンスク――

中央ロシアとシベリアの接点、戦略上の心臓部。


「《ウラル・シンジケート》が帝政に対して明確な敵対声明を出しました」

「奴らは、マフィアの連合国家だ。国家ではなく、暴力と取引の塊」


そう口を挟んだのは、国家保安庁(旧FSB)出身の顧問だった。

「スヴェルドロフスクに拠点を持ち、ガス・鉱山・兵器密輸――

中国とも非公式なパイプを維持している。油断ならん」


プーチンは椅子に沈み、ゆっくりと呼吸を整えた。

そのとき、ひとりの側近が分厚いファイルを手に現れた。


「陛下。こちらを」

「……なんだ?」


「現在、シベリアに存在が確認されている主要軍閥の一覧でございます。

今後の征服戦略にお役立てください」


プーチンは目を細め、そのファイルを手に取った。


《シベリア諸勢力一覧(あいうえお順・抜粋)》

名称 拠点都市 政治体制 兵力 国際関係・備考

アルタイ神政共和国 ゴルノ=アルタイスク 神権国家・スラヴ土着信仰 約3,000 カルト宗教主体、外交拒否

イリーナ神聖国 チェリャビンスク 女性将軍による神政独裁 約5,000 フェミニスト的神権支配

エニセイ大戦線 クラスノヤルスク 軍閥共和制 約12,000 NATO系装備多数、反帝

オムスク勤労共和国 オムスク 社会主義的労働者国家 約8,000 中国から技術支援あり

カムチャツカ海洋連邦 ペトロパブロフスク 水産連合・海軍主体 約2,500 日本と非公式な取引あり

クラスノヤルスク帝政派 クラスノヤルスク郊外 王党派残党 約3,000 帝政ロシアに協調的

ケメロヴォ鉱山評議会 ケメロヴォ 労働評議会型政体 約6,000 無政府主義者多し

サハ共和国独立評議会 ヤクーツク 準独立自治評議会 約9,000 中国に緩やかに接近中

シベリア暗黒騎士団 ヤクーツク近郊 封建主義・戦士階級制 約7,000 ヨーロッパ中世様式、好戦的

ズラトウースト銀剣連盟 ズラトウースト 傭兵経済連邦 約4,000 外国人傭兵多数

タンヌ・トゥヴァ人民共和国 クズル 共産主義復古派 約6,000 中国の影響大

チタ共和国 チタ 民主制(建前) 約5,000 アメリカNGOの影

トムスク未来都市連邦 トムスク テクノクラート政体 約3,500 シンガポールと通信連携

ナリルスク鉱山公社軍 ノリリスク 企業国家型軍閥 約2,000 多国籍企業の支援あり

ニジニ・アンガラ人民共和国 北バイカル 小国家主義+民兵型 約1,200 自給自足、外交なし

ノヴォシビルスク統一戦線 ノヴォシビルスク 軍政国家 約11,000 EUと交渉中

バルグジン仏教共和国 バルグジン ラマ教神政国家 約2,500 チベットとの霊的繋がり

ヒマルガ要塞共同体 アナディリ周辺 軍事共同体 約1,000 ローカル武装集団の寄せ集め

フォルゴンスク自由連合 フォルゴンスク 無政府状態 約500 実態不明

ベリョゾヴォ自治戦線 北ウラル 原住民権利武装集団 約3,000 国際人権団体が介入中

ボリシャヤ聖銃団 西バイカル 神秘宗教武装 約2,000 錬金術思想を標榜

マガダン鉱務軍団 マガダン 企業型採掘国家 約4,000 極端な徴兵制度あり

ミール労働者革命軍 ノヴクズネツク ネオ共産主義 約6,500 ラテンアメリカ左派と連携

ムルマンスク氷結評議会 ムルマンスク 海上都市評議会 約1,500 北極圏の自治勢力

メドヴェジ共和国 トムトル 独裁政 約3,000 クマを神聖視する原理国家

モンゴル国境守備戦線 チョイバルサン 地域武装自警団 約2,000 モンゴル政府と衝突中

ヤマル戦略自治域 サレハルド 資源独占政体 約6,000 西欧石油企業と提携

ユグラ祖霊連盟 ハンティ=マンシースク 精霊信仰ベースの民兵 約2,200 原住民主体、防衛的

※残り70勢力については別途付録として掲載予定。


プーチンはファイルを閉じ、ふっと笑った。


「百の旗か。だが、いずれすべて――余の下に膝を折るだろう」


その視線の先には、ウラルの牙のように並ぶ山々があった。


✅次回(第5話)予告:

「亡命元帥の書」

かつてプーチンの腹心だった男が、ウラルより密書を送る。

その中に記された「新皇帝打倒の連合構想」とは――?

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