僕が僕に人生をやり直させた話

東雲

第1章 : 夏の川と知らない顔

高校2年の夏。空は青く、雲は白い、僕は何も考えずに毎日を生きていた。


まさと :「おーい、たくやー!今日も川で釣りしようぜ!」


まさとの声が庭の外から聞こえる。蝉の鳴き声がその声にかぶさって、夏の午後を彩っていた。


たくや :「いいよー、今から釣り道具持ってくるから待ってて!」


僕は慌てて準備をすませ、玄関を飛び出した。釣り竿を肩にかけ、自転車にまたがると、向かいで待っていたまさとがにやりと笑った。


たくや : 「今日は何釣る?」


まさと : 「うーん、ヤマメあたり取りに行くか」


たくや :「おっけー」


そう言い合って、僕らは川へ向かった。


夏休みの午後。時間はゆっくり流れ、風はぬるく、心地よかった。


たくや :「よし、ついたー!」


まさと :「それじゃあ早速釣りますか」


川に着くと、僕らは思い思いに竿を垂らした。


1時間後


たくや :「今日は、釣れないねぇ」


まさと : 「そうだな、いつもだったら釣れるのに」


まさとの言葉に僕がうなずいたその時──


バシャンッ!!


「……???」


僕らは同時に音のした方を見る。川の上流の方で、水しぶきが上がった。


たくや :「今の音……人?」


川辺の岩場に、ずぶ濡れの男が倒れていた。見覚えがあるような──けれど、見知らぬ顔。


男 : 「いたた……」


男が顔をゆがめて起き上がる。その瞬間、僕の胸がドクンと鳴った。


たくや :「──大丈夫ですか?」


僕は思わず声をかけていた。


まさと :「おい、やめとけって!」


まさとの声が背後で聞こえたが、足が止まらなかった。


たくや :「大丈夫ですか?」


男 :「……ベランダにいたはずなのに……ここはどこだ?」


たくや :「え……?」


男は混乱している様子だった。服装は現代的だけど、何か違和感がある。どこかで見たことがあるような気もする。


男 : 「ねえ、君ここどこ?」


たくや :「◯◯町ですけど……」


男 :「え?地元じゃん……てか暑っ!今何月だよ」


たくや :「そりゃそうですよ、8月ですから」


男はそこで目を丸くした。


男 :「……8月?でも今は……2025年の4月のはず……」


たくや : 「……は?」


僕は笑った。なんの冗談かと思った。でも──その目は本気だった。


たくや :「……いや、今は1999年の8月ですけど?」


男はしばらく黙り込んだ。


そして、小さく笑った。


男 :「……そうか、1999年……マジか……」


まさとは横から口を挟んだ。


まさと :「え、こいつ大丈夫?頭ぶつけた?」


僕は男をじっと見つめた。


その横顔。


輪郭。


目の形。


──鏡で見る、自分と同じ顔だった。


たくや :「な……名前、なんて言うんですか?」


男は一度、空を見上げてから僕を見た。


そして、静かに言った。


男 :「……たくや。俺の名前は、たくや。」


僕はその瞬間、すべての言葉を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕が僕に人生をやり直させた話 東雲 @shinonome_desu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ