産まれた初日に『誰だお前は?』と喋った幼女のまったりチート異世界生活

かみのみさき

第1話 泣かない赤子と半年後


(苦しいな……どこだ此処は?)


『ほらっ、もう少しだから、頑張って!』


(何だ……何をしている……)


『うああああああっ────!!』


(灯りが……あそこへ行けばいいのか……)


『産まれた! 産まれたぞ──っ!!』


(眩しいな……何を騒いでいる……)


『お待ち……っ、泣かない……』


『どうしてっ、どうにか出来ないのか!?』


『大丈夫さね。こういう時、やる事は一つさ』


(やめろっ、なぜ逆さまにする……拷問か?)


『っ、尻を、叩くんだ──っ!!』


 ────スパアアアンッ!!


(鞭打ちの拷問か……ふんっ、痛くも痒くも無いわ。手首のスナップが甘過ぎる!)


『だめだっ、泣かないっ……』


『目は開いてるんだ! まだ望みは有る!』


(何度やっても、無駄だと言うのに。中々しつこい奴等だな……)


『くそっ、せっかく産まれて……』


『貴方……私にっ、抱かせて……』


(ふん、ようやく解放したか……)


『あぁ……私の可愛い子。お願いだからっ、お願いだからっ……泣いて頂戴』


(今度は何だ? 誰かに抱かれたな……耳元で、何を言っている……聞き取り辛いぞ)


『お願いよっ……声をっ、声を聴かせてっ……』


(むっ? 声を出せば、解放するのか?)


『お願いだからっ────』


(ふむ……顔を見ておくか……?)


「誰だお前?」


 その瞬間────その場に居た、者全ての者が、女性に抱かれた赤子を凝視した。


『あ……あぁっ……感謝します神よ!』


 赤子を優しく抱きしめて、その女性は涙を流し、神に感謝の言葉を述べたが、抱かれている赤子は、若干不満な顔を浮かべていた。


(今度はっ、圧死でもさせる気なのかっ)


◇ ◇ ◇


(ふむ……今日の俺も、素晴らしく可愛いな)


 雨が降って出来た、水溜りに顔を近付けて、そこに映る自らの顔を見て、ほくそ笑む幼女。


 ふわふわの銀髪に、宝石と見紛う眼。

 ふっくらとしたぷにぷにの頬に、均整のとれた鼻が、ちょこんと付いている。


(いつ見ても……素晴らしい容姿だ……)


 幼女が自分の姿を見て、ニヤニヤしている様は、可愛らしいと言うよりも、可笑しいと言った方が、適切であろう。


「ミノア──っ、どこにいるの──」


(おっと、母が探しているのか。早く戻らねば、また抱きつかれては堪らん)


 そう言って、よちよちと歩きながら、家の中へと戻って行った。


「ミノア──っ」


「ここにいるぞ、母よ」


 幼女が言う台詞では無い。

 母と呼ばれた女性は、一切気にする事なく、ミノアへと近付き、抱き上げて、優しくその頭を撫でる。


「ダメでしょミノア。貴女はまだ小さいんだから、お外には、ママと一緒に出ましょうね」


(ぬぅ……この容姿は良いのだが、この過保護な母が、問題だな。自由に歩けぬ)


 この幼女は、まだ生後半年である。

 にも関わらず、喋り、歩き、時折り変な動きをしていると言う、不思議幼女。

 彼……いや、彼女は、転生者であった。


「ほらミノア、お空が綺麗だねぇ」


(うむぅ……眩しいのだがな。太陽が二つあると言うのは、何とも不思議なモノだ)


「母よ。畑を見たいのだが、良いだろうか」

(抱かれているから、動けんのだ……)


 ミノアの言葉に、母と呼ばれている女性は笑顔を作り、顔を近付けて、交換条件を提示する。


「私の事を、ニノア母さんか、ニノアママって言ったら、連れて行ってあげるよ?」


 腹を痛めて産んだ我が子に、母の名前を呼ぶ様にと、言わなければならない。その心境を察する事は、誰にも出来ないであろう。

 

(母ではダメなのか? 仕方あるまい……)

「ニノア母、畑に行きたい……です」


 この転生者、見た目は生後半年の幼女ではあるが、中身は成人男性そのモノ。しかも、自らの身体を見ては、悦にいるという、『根っからの変態』である。

 そんな変態ではあるが、中身が成人男性なだけはあり、母を名前呼びなぞ、緊張と恥ずかしさで、口から下呂を吐き出す思いであろう。


「っ、可愛いわぁ! それじゃあ行きましょ!」


(ぐぇっ……力を込めすぎだっ、ニノア母よ)


 今現在、ミノアを抱き締めている、ニノアの力は、コンクリートブロックを粉々に出来るで有ろう、人外の力。

 普通の幼女にした場合、圧死は免れ無いであろうが、幸いミノアは無傷である。


(一体なぜ、この様な事になったのか……全てはあの、年増の所為であろうな)


 成人男性が、ミノアとなった理由。

 その時の事を、ミノアはしっかりと、記憶していた。

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