Scene.5 ふたりからのプレゼント
カフェを出て、商店街を抜けたあたりで──
ふたりがぴたりと足を止めた。
「彩香さん、今日どれがいちばん気に入ってました?」
結香がふいに訊いてきた。
「え、なに急に」
「いいから、いいから。どれ?」
「……えっと、あの白いトップスと、ベージュのロングスカートのやつ、かな」
「ほらね、言った通り」
「はい、言った通りです」
結香とみきが、顔を見合わせてニヤリとする。
……不穏だ。なんだこの連携プレー。
「なに、なに。わたし、なにかに巻き込まれてる?」
「じゃーん!」
結香が紙袋をひとつ、まるで手品のように差し出した。
「えっ、これ……」
「さっき、彩香さんが“似合いそう”って言ってたやつ。こっそり買っときました」
「ついでに靴下は、わたしチョイスです」
「いやいやいや、なんで勝手に! わたし、買ってないし、払ってないし!」
結香が指を一本立てる。
「彩香さん、今日記録係でしたよね?」
「う、うん……」
「だったら、“モデル料”として受け取ってください」
「え、モデル料って……」
「あと、今から駅まで歩く間に、その服に着替えてください」
「着替えるって……駅前のトイレで!?」
「記録係なのに、そこ記録しないんですか?」
「記録しないわ!!」
だけど、袋の中からのぞいた白い布地は、さっき試着室で見たときよりもずっと「自分のもの」っぽく感じた。
わたしはひとつ、大きく息を吸って、口をつぐんだ。
そして、そのまま紙袋を受け取った。
「あーもう、しょうがないなあ。
そのかわり、ちゃんと記録しとくからね。
“ふたりの陰謀により、記録係がついに着替えさせられた午後”って」
「タイトル長いですよ」
みきが笑う。
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帰宅後、その日の記録より抜粋:
16:03 某所トイレにて、着替え。
16:08 「それ、似合ってるね」と結香。
16:09 「なんか、“ちゃんと今日っぽい”です」とみき。
16:10 なぜか、その場で記念撮影。
16:11 自分のスマホにも写真が残っていた。不思議だ。
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次回、最終章:Scene.6「記録係の記録されざる記録」
この一日を通して、須藤彩香が感じた“記録すること”と“記録されること”の境界線。
ふたりに何を記録され、何を見逃されたのか──
ひとつのショッピングが、ひとつの自己発見に変わる瞬間です。
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