魔神教!

魔典帝国の中心に鎮座する魔神教の総本山、黒耀教会の最奥で教皇は報告を受けていた。報告を受けたのは、七つの派閥のうちの一つ、暴食の派閥だ。魔典教には7つの派閥がある。



一つ目が、今報告を受けている暴食の派閥。この派閥は“美食”について探究し、それを世界に広めている。一見宗教とは関係なさそうだが、この派閥は食がある場所ならば貧困層のもとにも出向き、金を落とし、経済を回している。そのため、この派閥には他よりも少し多くの予算を毎年渡している。


二つ目が傲慢の派閥。ここに所属する人間はプライドが高いが、その代わりに並外れた努力を重ねている者ばかりであり、魔神教での武力面ではトップである。予期せぬ事態がない限り、この派閥が魔物の反乱や盗賊の対処などを担っており、そのため民間人の信者も多い。


三つ目が怠惰の派閥。ここでは、物事をいかにして楽をしようとするかを探究している。そのため、他の派閥の意見や異界の知識を参考に多くのものを発明している。この前に肩のマッサージ機を私のために作ってくれたのだが、あれはとても助かっている。この派閥なしでは、人類の発展は数十年遅れていたとも言われている。


四つ目が強欲の派閥。この派閥に属する者は非常に欲深く、それぞれが貪欲に知識を求めている。よく怠惰の派閥と共同研究を行っており、数百年にわたって蓄えられた膨大な知識の集積所は“叡智の場”と呼ばれている。ここを訪れるために十数年待ちする者もいるほどだ。


五つ目が憤怒の派閥。ここでは世の理不尽に怒り、他国に出向いては私腹を肥やした貴族を潰したり、あるいは小国を更地にしたりしている。毎回理由があるため一応は許されているが、対応するのはいつも教皇の私なので苦労が絶えない。それでも批判が少ないのは、この派閥が最も信者数を誇るからだ。国としても民衆の怒りを買いたくないのだろう。


六つ目が嫉妬の派閥。その名の通り、他の派閥に嫉妬している。というのも、この派閥には他と比べて突出した才覚がないのだ。良く言えばオールラウンダー、悪く言えば器用貧乏。しかし全ての分野を浅くでも収めているため、他の派閥が思いつかないような行動を取ることがある。それを見た他の派閥が一目置いているのだが、本人たちは気づいていない。


七つ目が色欲の派閥。ここでは民間人や信者が自分の願望を打ち明けに来ることが多い。この派閥はそれを“支援”という名の特訓によって叶えようとしている。スキルの発現方法は強欲の派閥が解明しており、それを応用している。ちなみに、この派閥が二番目に貴族を殺している。



「我ら暴食の派閥に暴食の勇者が誕生しました!」


魔王の次は勇者か…なぜ私の代でこんなにめんどくさい。


「場所は分かっているのか?」



「グルス王国付近で誕生したと推察しております。勇者の現在位置は魔道具により、発見することができます。教皇様暴食の派閥に派遣の許可を!」


教皇は頷き、静かに言った。


「暴食の派閥から数人派遣して、その者を確かめてこい。しかし、変な事はするな。わかっているだろ?」


120年前、教会は異界からやって来た勇者を無理矢理勧誘しようとして多大なる被害を出したと教会に残る文献に記されている。


バン!



「教皇様、報告いたします。ノーバック帝国とグルス王国の戦争に魔王が介入したおそれがあります!」


報告によれば戦争に参加した十数万の兵達が全て死亡したそうだ。近くで偵察していた聖騎士が報告の後消息を断ったら様だ。


あぁ、また怠惰の派閥から胃薬でも貰おうか…

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異世界転生即死亡! 巫山戯 @279936

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