レンから見た世界

 この話は、本作『絶望の楽園』よりユウジンとは別視点で一部抜粋して描くレンのお話。


 俺は森の中、ユウジン達を盾にしていた。

 ふん、ザマァみろ。

 お前らは何の努力もしてこなかった無能達だ。それでも愛され育った報いを受けるんだ。

 そう。俺はこいつらが嫌いだ。

 ノアの方舟にいた時、どうしてこいつらは親や、友人に恵まれているのか理解できなかった。俺はどうだ?親に愛されているのか?

 父さんも母さんも、俺をそっちのけで喧嘩ばかり。喧嘩の理由はいつだって俺だった。

 俺は生まれてこない方が良かったのか?

 その方が二人は喧嘩の原因が生まれず仲良く過ごしてこれたんじゃないか?


 やめろ。こんな思考止めてくれ!そんなふうに考えてしまうのが辛いんだ!


 俺は愛されているんだ。大丈夫。

 父さん。母さん。俺を見てくれ。俺はいつだって成績トップだ。見てくれよ!俺はいつだって二人の望む優等生だ。 


 ほら

 父さんも母さんもいい成績に喜んでくれる。ああ、良かった。また安心できた。

 

 数日後、また喧嘩をしている。

 何で。何でそんなに。

 

 俺はある日部屋を飛び出した。

 いつもなら勉強をしている時間だ。

 こんな平日の昼間に広場に出てくるなんて、不良だけ。そう思ってた。


 そのはずだったのに、どうしてゲーセンにユウジンがいるんだ?

 あいつ、確か成績の2番目だったはず。

 あんな不良が俺の2番だっていうのか?


 ふざけるな!


 見ていればゲーセンから出てくるのはユウジンだけじゃない。あいつの親友、ザイドもいる。

 ザイド、あいつの両親は医療部門の先人を切ってる逸材だ。その血があるせいかあいつも成績は悪くない。

 それでいて両親から愛されているのを知っている。

 俺は一体何のために頑張っているんだ。


 あいつらは何を話して笑っているんだ?


 俺が滑稽に見えるのか?

 笑うな!

 お前らなんか大っ嫌いだ!




 ああ、虚しい。俺はいつまでこんな気持ちを抱えて生きていくんだ。こんな感情、辛い。誰かを憎む自分が憎い。

 

 俺には二つの感情が常に葛藤していた。


 そして、俺は森で変異をした。

 この森を拒絶していたからだ。

 

 エナがユウジンを呼び叫んだ。

 やめろ。あんな奴呼ぶな。嫌いだ。近づくな。どうせ、お前らも俺が嫌いなんだろ。


 そう思ってた。それなのに。ユウジン。

 どうしてお前は俺を見捨てなかったんだ?


 ほかっておけば、失敗者たちのようになって俺は森を彷徨う。そうなると思っていたのにどうして俺に手を差し伸ばす?


 気がつけば俺は繭の中にいた。

 温かい。

 体の変異がとまっているんど。


「レン、諦めてはいけませんよ」


 お前は誰だ。なぜ俺の頭に話しかけるんだ。

「私はこの森を作り上げました。皆は母様と呼びます」

 

そうかよ。それでお前は俺に何のようだ。


「私には分かります。あなたは今苦しんでいる。そして、そのしがらみから解き放たれたいと常に葛藤していますね」


 何で......分かるんだよ。


「私は今あなたの記憶と感情が手に取るようにわかります。随分苦しかったですね。よく今まで、頑張ってきましたね。大丈夫ですよ。ユウジンたちは敵じゃない。あなたの味方です」


 そんなことは.....。

 そう思ったのに助けてくれた瞬間を思い出し俺は言い切れなかった。


「さぁ、今も彼らはあなたを心配しています。彼らの心の声を聞いてください」



 すると俺の耳にユウジン、ザイド、エナの心の声が聞こえてきた。

 俺を心配する思い、ノアの方舟のみんなを思う気持ち、そして不安な気持ちが伝わってきた。

 そう、みんな俺と同じ不安を抱えてた。


 それなのに俺は自分の心しか向き合えていなかった。

 

 俺は。俺は何て酷いことをしてきたんだ。


「大丈夫ですよ。まだ間に合います。あなたが正直になるだけです」


 今更だ。俺はあいつらに酷い言動をしてきたんだ。許してもらえるわけがない。


「話せばわかります。心を閉ざしたままでは打ち解けることすら出来ませんよ。どうか、彼らのことをもう少し信じてみてください」


 俺には分からないどうしてそんなにあいつらの肩を持つんだ?


「それは少し先の未来が見えるからです。未来は複数広がっていますが、あなたが勇気を振り絞れば確かに良い未来が待っています。その未来の先で何が起きるかはまだ分かりませんが、彼らとの関係は間違いなく良好です。だから、素直になることを怖がらないで」


 俺は言葉にならなかった。すると母様が続けた。

「あなたにも未来の一部をお見せしましょう」

 そう言って見せてくれた世界。それは、草原がどこまでも広がり、そらは青く晴れ渡っている。見渡す限り自然に包まれ人が、動物が植物が、同じ環境で手と手を取り合い生きていた。


 気がつけば俺の頬を涙が伝っていた。


「この未来は複数ある未来の一部です。こうならない場合もありますが、私はこの未来を目指し、人と手をとって生きていきたいと思っています」


 ああ、俺もそうしたい。こんなふうに草原を走りたい。仲間を作りたい。もう苦しみたくない。


「ありがとう。あなたはもう、大丈夫です」


 気がつけば俺は繭から飛び出していた。

 外の世界は戦場と化していた。こんな世界はだめだ。俺が守るんだ。目の前にはユウジンがアヤを前に涙していた。


 何があったんだ?

 すると母様がまるで耳元で話しかけるかのように、何が起きているのか教えてくれた。


 ふざけるなよ。

 こんな戦争望んでねぇ!


 俺に何ができる?まだ、具体的には分からない。でもこれだけは言える。


 俺がお前らを守るんだ!

 

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