元地球人の黒魔導士、英雄になるそうです。

海月 凪

#01.異世界転生と黒魔導士

「異世界転生」

日本人であれば、多くの人が聞いたことのある言葉であろう。勿論、私も例外ではなく、読者でもあったし、アニメも見てきた。けれど、まさか転生というものが現実にあることも、自分がその当事者…つまり、転生者になるとは思ってもみなかった。





目が覚めると、自然豊かな森の中で一人、寝転がっていた。葉や草が青々と繁っており、小鳥の囀りさえ聞こえる。目の前には、透明度の高い綺麗な池があり、約1日分の食料が周りに転がっていた。何とも適当で雑な神様だ。まあ、用意してくれるだけましか。

異世界転生したことは、いいとしてだ。

直近の記憶が、まるでない。



なぜ、ここに来た?


なぜ、転生した?


なぜ、死んだ?




「なんて、考えても無駄か。」


覚えていないということは、覚えておく価値もない程にどうでもいいことだった。それか、意図的に消されてるか。前者でも後者でも、今の自分ではどうしようもない。

考えるのをやめ、池を覗き込む。水に反射した人間は、かつての自分ではなかった。黒髪黒目の風貌はそのままだが、黒がより黒みを増しており、なにより美人になっていた。ぱっちりとした二重の目。髪や目の黒とは対照的に肌は物凄く白い。


「これも、神様の趣味...?」


いや、私の好みの顔ではあるが...。

まあ、美人に越したことはない。この顔を利用したら、衣食住揃えるのも楽だろう。

...ここに、人のいる街がある保証はないのだが。


サバイバルをするのはごめんだ。食われようが、餓死しようが、理由はなんであろうと絶対にすぐ死ぬのは目に見えている。


「ステータスとかは、見れないのだろうか。」


なにか、魔法のような超能力…探知能力とかを持っていれば、街を見つけられるかもしれない。

ものは試しだ。


「ステータス」


 …。


「はい、ですよね。知ってましたよ。」


周りに人がいなくてよかった。いや、よくないんだけど。…そもそもの呪文が違うのか。それとも抽象的すぎるのか。力業だけど、後者ならまだ試せる。


「我の力を示せ。ステータス」


すると、目の前に自分の個人情報らしきものが出てきた。あ、具体的ならいいんだ。

名前は空欄。年齢は、17歳。同じだ。他はまあ、今はどうでもいいだろう。

それよりも、こっちだ。

【SKILL】と書かれた欄には、『Search-Ⅰ』『Copy-material』『Imitation-Ⅰ』と書かれていた。恐らく英語だろう。だが、困ったことに、英語は大の苦手。SearchとCopyはなんとなくわかるが、Imitationは全く。まあ、Searchさえあればどうにかなるだろう。具体的、だよな。


「人のいる場所を探し示せ、Search。」


緑色の魔法陣らしきものが足元に広がり、目の前にコンパクトのようなものが現れた。手に取り、蓋を開くと矢印が表示され、池とは反対の方向を指した。


「魔道具というやつか。」


魔道具って、そんなポンポンと出ていい代物でもないと思うのだが。

とりあえず、周りに転がっていた食料を持ち、矢印の示す方向に向かった。








食料をちまちまと食べながらしばらく歩くと、鬱蒼としていた草木は段々短くなっていった。そして、人工物が見えた。赤レンガ調の建物や、木造の建物と様々。こんな景色を見ていると、本当に異世界に来てしまったのだと実感させられる。



さて、街を見つけたから最悪の想定(餓死、食われるetc.)からは脱した。

けれど、次の問題。


金がない。


何も買えないし、どこにも泊まれない。今、所持している食料も限られている。今日のうちに働き口を見つけて金を稼がなければ、普通に死ねる。都合よく泊まる場所付きのバイトでもあればいいのだが。


「冒険者ギルドとか、掲示板とかないのか。」


恐らくここは、街の端。中心に進めば、絶対に何かはある。だが生憎、もう日は傾いている。一日24時間じゃない可能性が出てきたぞ。それとも、転生したときには…いや、覚えてねぇ…。







希望だけを持つようにして、歩みを進めた。

住宅のような建物ばかりだったのが、何かの店や宿が増えてくる。そして、人も増えてくる。なんだか視線を感じるが、まあ身体に葉っぱや泥がついてたりするのだろう。異世界といっても、人間と同じような生物が社会を作っているのだから、基本的なところは変わらないのだろう。他人事のように考えていると、羨ましく感じるが、実際は地獄だろ、これ。


「あ、ここ。」


酒場のような見た目。中にはガタイの良い男や獣人、エルフと様々。冒険者ギルドだ。


中に入る。歩く度に木の床が軋む。筋肉量が多いやつが歩いたら床抜けそう。


受付カウンターに行く。その最中にも、周りからジロジロと見られる。こんなにも多種多様な種族が共存してるっていうのに、人一人来たくらいで今さら何だっていうんだ。


「すみません、」

「はい!って…え。」


俯き、何かを書いていた受付さんは、顔を上げこちらを見るや否や怪訝な顔でこちらをうかがってきた。


「…黒魔導士さんですか?」

「え、?」

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