第20話 予選突破と、女神からの招待状
「キャーーーーーーーーーッ!!!!」
カフェテリア中に響き渡った、女子生徒たちのものすごい歓声。
私は、奏くんと朝陽くんに両側から体を支えられたまま、真っ赤になって固まっていた。
奏くんと朝陽くんは、私を支えるのも忘れたかのように、お互いをバチバチと睨み合っている。
「おっと、ごめんね! 大丈夫だったかい、僕たちのプリンセス?」
我に返った朝陽くんが、爽やかな王子様スマイルでその場を収めると、カフェテリアの熱狂はさらにヒートアップした。奏くんは、チッと大きな舌打ちをして、乱暴に私から手を離す。
このハプニングは、あっという間に学内SNSで『カフェテリアの奇跡』として拡散された。『Stella Marisの三角関係、マジ尊い』『ECLIPSEの二人を虜にする七瀬美空、何者!?』なんていうコメントで溢れかえり、私たちのユニットは、パフォーマンスとは別のベクトルでも、注目を集めることになってしまった。
そして、運命の予選投票、最終日。
放課後、私たちは奏くんのスタジオで、固唾を飲んで結果発表の瞬間を待っていた。午後五時、学内ネットワークの特設サイトが更新される。
「……来た!」
朝陽くんの声に、私の心臓が大きく跳ねた。
画面には『サマーフェスティバル一次予選 結果発表』の文字。スクロールすると、10位から順番に、本祭出場ユニットの名前が表示されていく。
10位、9位、8位……。
知らないユニット名が並ぶ中、姫宮サリナさんのユニット名も、順当にランクインしていく。
「……俺たちの名前、ない……」
5位まで発表されても、まだ『Stella Maris』の文字はない。焦りと不安で、息が苦しくなる。
【第3位:NEMESIS】
モニターに、あのライバルユニットの名前が大きく表示された。凄まじい支持率だ。
残るは、1位と2位だけ。
ごくり、と喉が鳴る。
【第2位:姫宮 サリナ】
「……!」
サリナさんが2位。ということは、私たちは……。
画面が切り替わる。
金色の栄光に包まれて、そこには、私たちの名前が映し出されていた。
【第1位:Stella Maris】
「…………やった」
「やったーーーーーっ!!」
我慢できずに、朝陽くんと二人で抱き合って、飛び跳ねて喜んだ。
「美空ちゃん、すごいよ! 俺たち、1位だ!」
「はい! はいっ!」
奏くんも、壁に寄りかかりながら、静かに、でも深く満足げな笑みを浮かべていた。私たちが勝ち取った、輝かしい予選1位という結果だった。
喜びも束の間、すぐに本祭に向けた作戦会議が始まった。
「予選は動画だったから、俺たちの世界観を伝えやすかった。でも、本祭はライブだ」
奏くんが、厳しい表情で分析する。
「特に、NEMESISのライブパフォーマンスは脅威だ。あいつらの、観客を無理やりねじ伏せるような熱量に、ただ綺麗なだけのステージで挑んでも勝てん」
「うん」と朝陽くんも頷く。「だから、俺たちの武器は『一体感』だ。奏の言う通り、ただ綺麗なだけじゃない。観客全員を、俺たちの世界に引き込んで、一つの物語を共有するような、そんなステージを作るんだ」
そこで、本祭で勝つための、新たな課題が三つ、決まった。
一つ、予選で使った曲に加え、もう一曲、アップテンポな新曲を用意すること。
二つ、観客が参加できるコール&レスポンスのパートを作ること。
そして三つめは――。
「美空ちゃんに、MCをやってもらう」
「ええっ!? わ、私がですか!?」
「そう。歌だけじゃなく、美空ちゃんの言葉で、直接観客に想いを伝えるんだ。それが、何よりの武器になる」
あまりに高いハードルに、私が言葉を失っていると、奏くんのスマホが、ピロン、と静かな通知音を鳴らした。
彼が画面を一瞥すると、少しだけ、目を見開いた。
「……おい、美空」
奏くんは、そのスマホの画面を、私に見せてくれた。
そこに表示されていたのは、たった二行のメッセージ。
送信主の名前は、『RUA』。
『予選1位、おめでとう。本祭のステージ、見に行くわ』
『あなたの“本当の光”、見せてくれるのを、楽しみにしているわね』
憧れの、私の神様、瑠愛ちゃんからの、直接のメッセージ。
私のことを、見ていてくれた。そして、本祭に来てくれる。
嬉しさと、とてつもないプレッシャーで、頭が真っ白になった。
「……どうやら、最強の審査員が来場するみたいだな」
奏くんが、不敵な笑みを浮かべる。
「これはもう、やるしかないね、美空ちゃん! 最高のステージにして、瑠愛ちゃんを驚かせてやろうよ!」
朝陽くんが、私の肩を力強く叩いた。
予選1位通過という栄光。
NEMESIS、サリナさんという、強力なライバルたち。
そして、憧れの瑠愛ちゃんが見つめる、運命の本祭ステージ。
私は、スマホに表示されたメッセージを、何度も、何度も読み返した。
そして、強く拳を握りしめる。
「はいっ! やってみせます!」
夏の頂点を目指す、私たちの最後の戦いが、今、本当に始まろうとしていた。
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